新九郎譚 「続・落し物」


今回は久しぶりに、
我らが新九郎君のお話をしましょう。

新九郎君は事情があって
様々な公共のイベントに関わる事があるのですが、
昨年、落とし物係を経験しました。

ゴミに見間違えるほどの猫の写真が
届けられた時、
受理作業の手間を思って
心の中で舌打ちした新九郎君でしたが、
その写真を探しに現れた老人が
写真を見るなり抱きしめて泣き崩れた姿を見るに際し、
新九郎君は己の浅慮を大いに恥じる事となりました。
人生到る所に学びの機会アリ、です。

昨年そのような経験をしていますので、
今年の新九郎君は一つ成長しています。
どんな品にも人の想いがこもっている事を知っています。
それを強く意識しての勤務となりました。

今年は予想以上の数の物品が届けられたそうです。
拾得物というのは法律で厳しく管理されますので、
その手続きは大変ですが、
今年の新九郎君は一味違いますので、
元の持ち主にお返ししなければならない、という
使命に燃えて、それはそれは丁寧に扱いを行ったそうです。
(本来、そうあらねばならないのですが)

さて…
この場で詳しい内容を語る事は出来ませんが、
特別にあるアイテムについてお話しましょう。
それは、男女の名前が刻印された
ペンダントでした。

結婚を記念するものでしょう。
二人で共有する一つの思い出、
どちらが欠けてもならぬ、
否、二人でなければ成立することすらない、
厳粛な誓約の儀式。
その精神的な結束を
形にして身に付けていたい、という
二人の純粋な想いが
伝わってくるような、
可愛らしいペンダントが届けらたのです。

(これは絶対にお返ししなければならない!)
新九郎君は心の中でそう叫び、
その身は自ずから引き締まりました。

心配そうに問い合わせにくるカップル、
ペンダントを見た瞬間に
弾けるような笑顔になる二人、
嬉しそうに去ってゆく後ろ姿…
そんな場面を想像し、
大事なアイテムの返却という
一大イベントに関われる事を、
新九郎君は強く誇りに感じて、
これから起こるロマンチックなドラマに、
一人、胸を熱くしていました。
返却時の台詞まで考えていた、というのですから、
どれ程に新九郎君が入れ込んでいたのかが
わかります。



さて、夜になり、イベントは終了し、
来場客は皆、帰っていきました。
結局、誰もペンダントを取りには来なかったそうです。

まぁ、現実というのは常に散文的なものですね。






いつも読んでくださっている皆様、有難う御座います。
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