古書


私は古本が好きです。
古本に魅力を感じるのは、
その本をかつて誰かが読んだ、トいう
歴史的事実に基づきます。
何かを共用しているという、妙な仲間意識に
心強さをおぼえるのです。
そして、中でも「痕跡本」というものを特に愛しています。

痕跡本。
過去のオーナーが書き込みをしている本を指してこう呼びます。

痕跡本には、その本を読んだ誰かが、
「ここは大事だ。」
「このフレーズは素晴らしい。」
そう感じた時に印や線が引いてあったりしますが、
甚だしい場合には
抑えきれない興奮の思いが綴ってあったりします。
ここに、「共用」という、一方的な私の思い込みが
知らない誰かとの精神的「接触」に変化します。

さて、こんな書き込みに出会った時は、
見知らぬ誰かの、真っ裸の心の叫びを
偶然に聞いてしまったような
そんな気まずい感覚をおぼえますが、
然し同時に、
屋敷の奥に大事に秘し隠されている誰かの美しい妻を
垣根の隙間から偶然に目にしてしまったような、
妙な甘い胸騒ぎと心地よい罪悪感をおぼえたりもします。

hana ordinary花「それは逃げんと危ないぞな~!www」

sora scaredそら「た、た、忠興しゃん・・・! ガクガクブルブル



しかし、この程度で心を動かされてはなりません。
痕跡本の醍醐味は
人の心の生の声を聞けることにあるのですから、
もっと赤裸々な書き込みとの出会いに
期待と鼓動を高めなければなりません。

本当に素晴らしい書き込みとは、
何故その書き込みがされたのかを推察できるような、
書き手とその過去を思い起こさせる
エピソードが浮かび上がるようなものです。
要するに、
「○○子さんと共に歩いた何処其処が~でこうこうコレコレ」
などと、具体的な名前や書き手の気持ちが
生々しく書き記されている、
鼓動を打つ感情を文書化したもの。
書き手の過去と人生が、
その書き込みの奥に透けて見えるものでしょう。

その多くは、過ぎ去った過去を懐かしむものや、
失われた時を嘆くものですが、
だからこそ、そこには書き手の強力な感情がこもっています。
それは最早、
人と書との或る種の「霊的な混血種」と云えるほどです。

この様な書は、最早単なる古本としての痕跡本ではなく、
誰かの人生の痕跡本、と種別できましょう。
不謹慎かも知れませんが、
赤裸々な人の感情なんて滅多に見れるものではありませんから、
そういう意味では、
極めて貴重な文化遺産と呼べるはずです。
人の目に触れる事を意識して書かれていないからこそ、
そこには真実があるのです。
真実とは、人の捜し求める極まりのゴールでありますから、
これは一つの、人間が到達し得る最頂点と呼べましょう。

然し、常識で考えたら私のこのような考え方は
人の心を覗いて喜ぶ悪趣味なものと解されかねません。
いえ、その通りですね。



本邦には付喪神に代表される「物に魂が宿る」トいう考え方があり、
書物もこの例外ではないでしょう。
それは最早、単なる紙とインク以上の存在なのです。

17NOV16 019a







私がこれまでに最も心を打たれた痕跡本の書き込みは、
ある男性がある女性に贈ったと思われる本に
記されていた美しい一文です。
極めてプライベートな内容なのでここでは紹介しませんが、
半世紀以上も前の美しいラブロマンスに
不思議に胸が高鳴ってのをおぼえています。

ずいぶんと古いものですから、
きっともうこの男性も女性もこの世の人ではないでしょう。
この本も、ご遺品整理などで業者に売却されたものと思われます。
それが何のご縁があってか、今こうしてここに在る。
本の状態は美しく保たれており、
その事が持ち主のこの本に対する気持ちを
雄弁に物語っています。
会った事もない見知らぬ他人ではありますが
この本から妙な親近感を感じ、
そして、
誰かの人生の痕跡に触れるという厳粛に
思わず眼が熱くなってしまうのです。



いつも読んでくださっている皆様、有難う御座います。
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