野茨


丹沢のある場所に私たちのお気に入りだった山道がある。
人里からそれほど遠くないので気軽に行けるのではあるが、
そこは他のハイキングコースと比べて
不当と思える程に人気がなく
滅多に人と出くわさないどころか
殆んど最果ての僻地といった趣のある場所で
只管に家族だけの孤独を愛した私たちにとっては
正に理想のお散歩コースであった。

大山や丹沢山の丁度北側を走るこの道から南を眺めると
中空の太陽が相模の平野と私たちとの間に
屏風のように立つ丹沢山塊を照らしていて
尾根に反射するその陽光は健康的に眩しい。
その道を軽快に進み乍ら、
湧水に喉を潤し野鳥の声にほっとため息をつくのだ。
天と地と山の合間に
唯一私たちだけが存在し、
それが故での楽園であったのだが
着実な時間の流れだけは
何処かで感じていた。

その地に咲く野茨を
ある時思いつきで持ち帰った。
尾長鳥の羽ほどの枝をこっそり拝借し、
根が出るまで大事に育てて自宅の庭に植えた。
今思えば、みんなで歩いたこの場所の思い出を
目に見える形で手元に残したかったのかも知れない。
先ほども述べたが、
いつかくる終焉を無意識に予感していたのだ。


今年も春となり、初夏となって
具現化した思い出は益々その葉を広げている。
あの日々の痕跡、
ここにも花とそらが生きている。




いつも読んでくださっている皆様、有難う御座います。
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