わが名をよびてたまはれ


わが名をよびてたまはれ
いとけなき日のよび名もてわが名をよびてたまはれ

(いとけなき日: 幼い頃)


三好達治の「わが名をよびて」という詩の冒頭。
悲しいような切ないようなその響きに
思わずはっとしてしまう。

何かの本で読んだのだが、こんな話があった。
ある山でご老人が保護された。
この方はすでに過去を思い出すことが能わない事情で、
身寄りもなく、施設で過ごすこととなった。
その孤独なご老人が死の床で呟いた一遍の言葉。…

わが名をよびてたまはれ

それは単なる呟きではなく詩であった。
ご老人の口から、それに続く言葉が流れ出てくる。

わが名をよびてたまはれ
いとけなき日のよび名もてわが名をよびてたまはれ



名を呼ばれる。
なんという幸せだろう。
ことにそれが心の通ずる人からの呼びかけであれば、
そこに私たちは言葉に出来ない意味を感じ取ることが出来る。
最早、記憶はないと思われていたこちらのご老人であったけども、
その心の底には、幼き日に呼ばれたご自分のお名前、
そこに込められた深い愛情が、消える事なく確かに残っていたのだ。
私はそこに美しい人間の姿を感じた。


名前の呼びかけは相互交信だ。
呼ぶ側は愛情を込め、
呼ばれる側はその愛情を受け、
お互いに幸福な気持ちに包まれる。
呼びっぱなしで消え入る事はないその行為に、
一方通行は成り立たない。
私は、花とそらの位牌の前でそっと手を合わせ、
ふたりの名前を呼んだ。
再度云う。
名前の呼びかけに一方通行はない。





* ご老人のお話は「死にゆく者からの言葉」鈴木秀子著という本に収録されています。



いつも読んでくださっている皆様、有難う御座います。
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