「海と夕焼」 三島由紀夫


前回、最後に入れた台詞は
三島由紀夫の「海と夕焼」という短編にみられる。
この短編は、
鎌倉の山を舞台にした
非常に美しくも悲しい名作だ。

有名なのでご存じの方も多いかと思うが、
念のために簡単に紹介すると、
主人公である安里という年老いた寺男と
村で仲間外れにされている少年が
一緒に夕陽を眺める物語だ。
安里は、「アンリ」と読む。 

少年の安里はかつて、
神の声に従って十字軍を率いた。
お告げの通りに少年たちを統率し、
聖地奪還の為に
神秘の導きによってマルセイユに向かった。

マルセイユに着けば、
地中海が割れて
エルサレムへの道が出現するはずだった。
神の声は確かにそう告げたのだ。

然し、何日たっても海は割れず、
挙句の果てに安里たちは悪い男に騙されて
奴隷として悉くが売られてしまう。

そうして、流れ流れた先で日本の僧侶に救ってもらい、
漂り着いたのが鎌倉建長寺だった。

その安里、年月の果てに年老いた老人の杏里が、
遠い異国、孤独の地で、
夕陽に染まる水平線の
その遥か彼方の母国を想っている。

物悲しく、そして美しい情景が、
三島由紀夫の超絶技巧の筆で描かれる名場面だ。

仲間たち、羊の群れ、懐かしい山々、
安里は故郷を憶う。
然しその横顔には
諦念の果ての虚しさが漂っている。

彼には既に、還りたいという望みはない。
それどころか、今を生きる世界すらない。
何故なら、海が割れなかったあの時、
あの運命の時に、
彼の世界の凡ては消滅してしまっていたのだから。…




文学というのは、
人生に於いてのその時その時で、
感じ方が全く違ってくる。

若い頃の自分はこの作品を読んでも、
なるほど上手い話を作るものだ、としか思わなかったし、
奥深さに気付く事もなかった。
然し、今はどうだろう。
安里が自分になってしまっている。

果たして10年後はどう変わっているか。
この現在の自分を
余裕をもって俯瞰出来るくらいに
成長出来ているだろうか。
今の私にとっての夕陽は、
美しさよりも滅びの色合いのほうが
遥かに濃いもの。





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「海と夕焼」を簡単に紹介しつつ
違う話に移ろうかと思っていたが、
今回はこの話がメインとなった。
人生、どう転ぶかわからないな、などと思いつつ
今回は筆を置こう。…




いつも読んでくださっている皆様、有難う御座います。







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