ふたりの世界


先日の夜のことである。

勤務が退けての帰宅途中、
老犬と老婦人が歩いているのを見た。

老犬は、一歩一歩、ゆっくりとした歩調で歩き、
御婦人も又、同じ歩調で従っている。
月の光に照らされた夜の散歩道に
ふたりの姿だけが影絵のように動き、
辺りの草木は風に葉を揺らしながら
静かにそれを見守っている。

このせわしい現世とは一切の関わりを持たず、
ゆっくりと、ゆっくりと、歩んでいるこの二つの個体は、
恰も人生を誓い合った夫婦のように
まったく一つの個体であるかのようだ。
その姿は、あまりにも美しい。

然し私は知っている。
その美しさは、
触れれば壊れるような
繊細な危うさのうえに成り立っているという事実を。
その儚さ故に、
訴えかけてくるものがあるのだという現実を。

老犬の、あまりにも頼りない足取りと
それを見つめる老婦人の悲哀に満ちた背中。
この先に必ずくるであろう悲しい別れは、
最早避ける事は出来ない。
壊れゆく未来の予感が、
ふたりの歩む今この時、この瞬間を、
切ないまでの美に昇華させているのだ。

月齢深き月が煌々と照るこの初夏の夜。
広大な世界にはおそらく何の影響も及ぼさないであろう
小さな町の小さなふたりを見送りながら、
岩盤のように堅固な未来を見据えたうえでも、
それでも私はこう祈らずにはいられない。

<ふたりの未来にきっと幸あれ>



儚い永遠を今日も誰かに祈らずにはいられないのである。








2014-10-18 18OCT14a



いつも読んで下さっている皆様、有難う御座います。


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