小さな白いおばあちゃんの夢


さて、一月二十六日「流星の夢」から此処まで
夢の話を八話ほど記してきた。
今回は第九話となる。
全部で十話の予定だ。
言までもなく、これは夏目漱石の「夢十夜」を真似ている。

第九夜の今回は、私の体験した不思議な夢のお話をしてみたく思う。




小さな白いおばあちゃんの夢

2013年9月、私は、そらに続いて花も亡くした悲しみに
最早気力も何もない失意のどん底に打ち捨てられた状態だった。
冷たい驟雨の中、ドブに半分顔を突っ込んだように倒れたまま、
立ち上がる動作どころか、そのきっかけすら掴めない、掴もうともしない、
人の形をした「単なる物」だったのだ。
ショック状態に独特の茫然とした思考に、
現実に在りながら夢のなかを歩いているような
不思議な感覚の毎日を送っていた。
「時間薬」という言葉だけが私の唯一の希望だった。

そんなある日のこと、
私は夜の当直勤務に備えて、日中、睡眠を取っていた。
花とそらがいつも寝ていたリビングのソファーが
その当時の私のベッドだった。
花そらの痕跡が少しでも残っているところに
一緒にいたかったからである。

シャッターを閉めてしまえば
昼間のリビングでも薄暗くなる。
私は浅い眠りと覚醒との間を行ったり来たりしながら、
それでも少しうとうとしていた。

醒めているというには余りに朧で、
眠りというには余りに生気を剰す。
現実の感覚がほんの少しだけ残った
まどろみの中を逍遙していたその時である。
何の前触れもなく、玄関から誰かがすぅと這入ってきた。

私はその時、
静かなその存在をはっきりと感じた。
小柄な人が一人、玄関に立っているのだ。
私は当たり前のようにその姿を眺めていたが、
否、眺めるというのは言葉が少し強すぎる、
閉じている瞼を通りこして、
我が精神に直接映り込んでくるその姿を
感覚で感じていたが、
その存在を確信を以て受容れていた。

やがてその人は、
廊下から、私の眠るリビングに這入ってきた。
薄い霧のような微かな存在でありながら
その気配は確かな現実のものだ。
私は何故か、見てはいけないような、
いや、気付いてはいけないような
気付くと何か悪いような気がして
その間、ずっと、
毛布をかぶって寝たふりをしていた。
閉じた瞼を通しているので
ぼやけた写真のようにしか見えないが、
それは、小柄な、小さな白いおばあちゃんだった。

仄かな、柔らかく滲んだ綿毛のような光に包まれた
その小さなおばあちゃんは、
私の傍らに立ったまま
じっとこちらを見下ろしていた。
顔の表情は、はっきりとはわからないけども、
きっと心配そうな表情だったに違いなかった。
私は気配でそれを感じとっていた。

白いおばあちゃんは
暫くそこに立っていたが、
ふと意を決したように、
かがみこんで私の顔にかかる毛布をめくり
私の顔を覗き込もうとした。

私はその時、どうしたわけか急に起き上がってしまった。
はっとして跳ね起きたのだ。
併しこれは重大な失敗だったようで、
おばあちゃんを大変に驚かせてしまった。

小さな白いおばあちゃんは、一瞬で消えてしまった。

薄暗い現実の部屋は何もなかったかのように静かで、
カチコチと時計の音だけが響くのみであった。


私は暫く茫然として天井を見上げていた。
たった今、自分が体験した不思議な出来事を
ぼんやりと考えていた。
そのうち、私の心に小さなある予感が生じ、
穏やかな波のように揺れながらゆっくりと形を成してゆき、
やがてくっきりとした確信となった。
あのおばあちゃんは花だったのだ……!

花だったに相違ないという、
決して願望の生み出した錯覚ではない驚くべき確信。
花が私を心配し、様子を見に来てくれたのだ。
私はこの不思議な現象をこう解釈し、
そこからまた思い起こしてみれば、
花が言いたかった事も微かながらわかってきた。

嘆き悲しむ私を見ておれず、
花はこう言いに来てくれたのだ。
「花はね、もうおばあちゃんだったの。
 だから仕方のないことだったの。。」
人間に姿を変えていたのは
そのことを伝えたかったからに違いない。…




夢は、
幻想であると同時に紛れもない事実でもある。
だからこういう事があっても
決して不思議とは言えない。
他者から見ればファンタジーにすぎない話であっても、
本人にとっては確固たる現実なのである。
そういった意味では、この話をおとぎ話として片づける事は
誰にも出来ないはずだし、誰も私を笑う事は出来ない。
私は確かにあの日、花に会ったのだ。







まさか、この話を語れる日が来るとは思わなかった。
まこと、時間とは最良の薬である。


いつも読んで下さっている皆様、有難う御座います。

16FEB15 MIYAGASE 061
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