千代とネルラ、星空に汽車旅をする


雀の世界にもいろいろなドラマがある。
彼らもまた、
人間と同じように悩み、喜び、毎日を懸命に生きているのだ。

今回は、銀河を旅する雀の子らのお話です。





千代とネルラ、星空に汽車旅をする 

人は大地を徒歩し、雀は大空を飛んでいます。
人の世界の汽車が地を進むように、
雀の世界の汽車は空をゆくのです。

今、その雀の汽車に乗って、
二人の少年雀が旅をしています。
二羽は名をそれぞれ、
千代ハイネ、海馬ネルラといいました。

二羽は、
この汽車に乗って何処までも一緒に旅をしようと誓い合いました。
そして、きっとそうなると思っていました。

「みんなの本当の幸いを見つけにゆく。」
「僕たち、何処までも何処までも一緒にゆこう。」
「あぁ、きっと一緒にゆこう。」

二羽はお互いの気持ちを確かめあって、
それから頭上に広がる
群青の星空を仰ぎ見ました。

「僕のおっ母さんがあすこにいるよ!」
ネルラが叫びました。
「僕、ずうっとおっ母さんに会いたかった。」

そこには、ぼんやりと白く煙った星雲の野原が広がっていました。
ネルラは、汽車の窓からほとんど身体の半分を投げ出して、
おっ母さんに向かって大きく手を振りました。
「おっ母さん! 僕だよ! おぼえていらっしゃいますか!」
「あなたのことを忘れた事などほんの一瞬もありませんでした。
 さぁ、迎えに参りました。 私の愛する子よ。
 あなたの時は満ちたのです……。」

その時、輝く光が汽車を包み込み、
千代の目の前は真っ白になって何も見えなくなりました。
段々と視力が回復して
辺りの星空が再び千代の双眸に映り始めた時、
今までネルラが座っていた席には既に彼の姿はなく、
ただ、黒いびろうどばかりがひかっていました。

「ネルラ? ネルラ……!?」

呼びかけても、
最早、信愛なる友はそこにはいませんでした。
行ってしまったのです。
「何故だ、ネルラ。
 僕ら、ずっと一緒にゆこうとあれほど約束したじゃないか……!」

その時、優しいセロのような声が千代にかけられました。
「おまえの友達はね、本当に遠いところに行ってしまったんだ。」




気が付くと、千代の前に中折帽を被った
身なりの正しい紳士が座っていました。
紳士は、セロのような上品な声で
千代に語りかけてきます。

「おまえはもう、ネルラを探しても無駄だ。」
「どうしてです!?」

「僕らは、ずっと一緒にゆこうと誓ったのです。
 どこまでも、どこまでも一緒にゆこうと!
 それなのに何故、ネルラはここにいないのですか?」
「あぁ、そうだ。 みんながそう考える。」

「そして、決して一緒にはゆけない。」




「ネルラはもう逝ってしまった。
 これは自然の法則であり、厳しい決まり事であるのだ。
 おまえはこの掟を決して覆す事は出来ないし、
 またそれを願ってもいけない。」

「何故なら、その願いはおまえを苦しませこそすれ、
 決して救いはしないからだ。」

「受け入れなければいけない。
 そうして、おまえはおまえの切符をしっかりと握りしめて
 この旅を続けなければならないのだ。」

「さぁ、ゆくがいい。
 これからも、本当の幸い、みんなの幸いを探して、
 本当の世界の火や激しい波のなかを
 大股で真っ直ぐに歩いてゆくんだ。。」






「もっと下流かもしれない!」
「灯りをどんどん増やさないと!」
「舟をこちらに回して下さい!」

そう叫ぶ大人たちの声で
千代は目をさましました。
疲れてしまって、丘で休んでいるうちに、
いつの間にか寝ていたのです。
空には、いっぱいに星が広がって
鈴の音のような光をはなっています。

ネルラが川に落ちてから、
真っ暗な川沿いにはたくさんの懐中電灯の光が
行ったり来たりしています。
村の人たちは大人も子供も
総出でネルラを探しているのです。
皆、大声で何かを話しています。

「もう駄目です。 ずいぶん時間がたってしまいました。」
「父親の貴方が何をいうのです!」
「こっちを! もっと下流を!」
「・・・・・・・・・!」
「・・・・・・!」

千代はゆっくりと立ち上がって
ふうと息をつき、
天の川の銀河を見上げました。
その頬を一筋の涙が流れ、
千代は小さく呟きました。
「僕、これからもずっと歩いてゆく。
 きっと見ててください。」


ただ一人、
千代だけがネルラの行った先を知っています。








2014-10-18 18OCT14a




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