小十郎、お不動さまに涙する


雀の世界にもいろいろなドラマがある。
彼らもまた、
人間と同じように悩み、喜び、毎日を懸命に生きているのだ。

今回は、小十郎と喜多が再登場する。





小十郎、お不動さまに涙する

喜多と小十郎は、仲の良い姉弟である。
小十郎にとっての喜多は
絶対君主の様な存在であり、
その命令は絶対で
逆らえば命の危険すらあるのだが、
兎に角も二人は仲良しである。

さて、暖かいこの冬の日、
村の桜の木のうえで、
小十郎は喜多から論語を習っている。
学問の時間であるはずなのだが、
何故か小十郎には生傷が見られる。
喜多の教育熱心ぶりが伺われる。

「師日わく、小人窮すれば斯に濫る。 はい!」
「師日わく、小人窮すれば斯に濫る。」

「師日わく、剛毅朴訥、仁に近し。 はい!」
「師日わく、剛毅朴とちゅ… あ、姉上!ご勘弁を!」

小十郎が言い終わらないかのうちに
喜多の放つ必殺の鉤爪が小十郎の横っ面をとらえる。
小十郎の生傷がまた一つ増えた。
教育熱心な喜多のまえに
間違いなど許されはしない。

その時である。
突然、近くの草叢から一羽の雉が飛びたった。
ものすごい形相の雉は、姉弟に向かって
「逃げろ!!」と叫んで、一目散に飛び去ってゆく。

驚いた二羽が呆気にとられたその刹那、
ズドンという轟音が長閑な安寧を引き裂いて
辺りの空間を揺るがした。
人間の猟師が使う鉄砲の音に相違なかった。

「種子島だ!」
小十郎がそう直感した時、
喜多が彼を押し倒してその上に覆いかぶさった。
喜多は必死に小十郎を抱きかかえている。
その時、二発目の銃弾が発射された音がし、
仰向けに押し倒されている小十郎の顔に
生暖かい液体が流れてきた。
血だ……!

「姉上! 姉上!」
小十郎をかばった喜多は、
その身体にまともに鉛の銃弾を受けてしまった。
喜多を直撃した弾丸は、
彼女の胸の肉を焼き、
その命を一瞬のうちに奪い去ってしまった。
それでもその翼は、小十郎を必死に守ったままである。
「姉上! 姉上!!」




涙に叫びながら、小十郎は目を覚ました。
そこは、いつもの寝室であった。
隣には、種子島で撃たれたはずの喜多が
すやすやと眠っている。
「夢だったのだろうか……」

否、そんなはずはない。
確かにあれは現実だった。

小十郎は、不思議な心持で
まだ夜の明けない暗闇を見渡していたが、
ふと、信仰している不動明王様が気になって
お堂へと向かった。

真夜中のお堂には、
虎哉宗乙和尚の姿があった。
和尚は、不動明王像の前で一心に経文を唱えている。
小十郎は、ふらふらとお堂に這入ってゆき
和尚の後ろ姿に声をかけた。
「虎哉さま、虎哉和尚さま……。」

虎哉和尚は真っ直ぐ前を向いたまま
経文の唱えを止めず、
ゆっくりと不動明王像を指し示した。
和尚に促されて目をあげた小十郎は、
その時、魂が切れるほど仰天して、あぁっ!と声をあげ、
落雷にあったようにその場に立ち尽くした。

小十郎の大きく見開かれた双眸から
涙が流れだす。
その足は震え、その翼は小刻みに揺れている。

見よ。 この世の奇跡を。
この大いなる慈悲の姿を見よ。

蝋燭の炎に照られた不動明王像のその胸には、
弾丸に貫かれた穴が痛々しく口を開けていた。













私たちを守って下さるそのお姿

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いつも読んで下さっている皆様、有難う御座います。

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