永倉栄吉、時の流れより離脱する


雀の世界にもいろいろなドラマがある。
彼らもまた、
人間と同じように悩み、喜び、毎日を懸命に生きているのだ。

今回は、死を目前にしたある老雀のお話である。





永倉栄吉、時の流れより離脱する

丹沢の山々奥深くにある一本の檜の天辺に
年老いた雀が一羽とまっている。
彼の名は永倉栄吉、
もうすぐ死を迎える運命にある。

栄吉は微動だにしない。
最早、翼の動かし方も忘れてしまったかのように、
もうずっと長い間、遠くの空を眺めている。
杭の様に固まった彼の周囲を
容赦ない強い風が、軽々と吹き抜けてゆく。
「この風は時だ、世界だ、仲間たちだ。」

風に吹かれた枯葉は、
もう遥か彼方へと消え去ろうとしていて
その姿は微かにしか見えない。
彼の仲間たちもまた、
この枯葉と同じように流れゆく時に乗って
遥か先へと進んで行ってしまったのだ。
栄吉のもつれる足は
ついに誰にも追いつけはしなかった。

然し、ゆっくりとではあるが着実に、
栄吉もまた、この時の流れを旅している。
そして今、ついに、
彼は「その時」の到来を感じているのだ。

栄吉は夢を見ている。
彼の目の前には次々と、
これまでの人生が
灯篭の映す影絵のように現れては消えてゆく。

田舎で仲間と共に身を起し、
都へ登って役職を掴み、
それこそ本当に命を捨てて戦った。
血風と白刃、毎日が修羅場だったが、
そこには仲間たちがいた。

ただ一心に、真っ直ぐに前だけを見て
仲間と共に全力で駆け抜けたあの日々。

仲間たちの一人ひとりの顔、
一緒にくぐってきた死線、
嬉しかったこと、悲しかったこと…・・

命の蝋燭が消える一瞬前のその刹那、
栄吉の人生で最も充実、いや、一番楽しかったと言いなおそう、
一番楽しかった日々が彼の目の前に現出し、
栄吉は、この時、夢の中で再び人生を生きた。




栄吉の身体がふらりと落下をはじめる。
落ちてゆくその身体から、
透明な魂がゆっくりと離れ出て
今、西の空へと帰ってゆく。
肉体という縛めから解き放たれた栄吉は、
迎えに来ていた仲間たちと共に
悠々と飛行して夕陽の向うへと消えて行った。

全ては許されて、全ては無にかえった。










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いつも読んで下さっている皆様、有難う御座います。




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