虎之助、妹に会う


雀の世界にもいろいろなドラマがある。
彼らもまた、
人間と同じように悩み、喜び、毎日を懸命に生きているのだ。

暴れん坊の福島市松が
唯一心を許す友人、加藤虎之助は心優しき好青年だ。
今回は、虎が或る夜みた夢の話をしよう。
優しい男とは、
常にこうして心に傷を負っているものなのかも知れない。





虎之助、妹に会う

加藤虎之助は夢を見た。
夢の中で虎は、十年程前に死別した妹と再会していた。
妹の名は薫という。
薫は、あの頃と変わらぬ姿で虎の前に現れた。
昔の通りの可愛らしい翼、
昔の通りのちょっと跳ねた頭部の羽毛、
そして昔の通りに左目の下には、
やっぱり小さな涙ボクロがある。

「君は全然変わらない。」
「虎兄様は、すっかり大人になられました。」
「あの時オレは、本当に悲しかった。」
「仰らないで下さい、私も同じなのですから。。」
「あの時何故君は、去らねばならなかったのだろう……。」
「去らねばならぬその時だったからです。。」



薫は変わらず美しかった。
輝くようなその若さと純潔は、
今はもう亡くなった命とは思われなかった。
断じて、断じて思われなかった。

「虎兄様、それは現世での事に御座います。」
薫は、虎之助の心を読むように、そっと呟いた。



「然し、薫よ。
 今、この現世が私にとっての現実なのだ。
 その現実に、君は最早いない。
 手を取り合って笑う事すら出来ないのだ。
 これは覆す事の出来ぬ絶対の真実なのではないだろうか?」

「いいえ、それは思い違いです。
 たとえこの世界に私は在らずとも、
 こうして心で会話する事も出来るではありませんか。
 私の心は、常に虎兄様と共に在るのです。」

優しき青年、加藤虎之助の頬を一筋の涙が流れ落ちる。



「虎兄様、時間です。 もう行かねばなりません。」
「薫よ、ひとつ教えてくれ。
 何故、私の時は流れ、君はあの時のままの姿なのだ?」
「それは、虎兄様が、まだこの世界でやらねばならぬ事があるからです。
 やるべき事を成し遂げるまでは、
 虎兄様はこの時間の中を旅せねばならないのです。
 それは決して苦行ではありません。
 虎兄様を必要とする誰かの為に生きる事は、
 生命の喜びの根源なのです。 命の輝きの源なのです。」


「虎兄様、私があの頃の姿のままなのは、
 あの頃が私にとって、一番幸せだったからです。
 だから私は、今もこうしてあの頃と寸分違わぬ姿でおりますのです。」


「虎兄様、父上母上が亡くなった後、
 私を必死で守って下さったのは虎兄様でした。 
 虎兄様、愛しております。 愛しております。 愛しております。 あいし・・・」







目覚めた時、
虎之助の枕は涙に濡れていた。

彼はそっと、「薫……」と呟いてみたが、
その先には黒洞々たる深い沈黙があるのみであった。

虎之助は、ぐっと嘴を噛みしめて
今にも、もう本当に泣き崩れそうになったその時、

「おぉい!虎!起きちょるかぁぁ!!」

野蛮で下品で乱暴で礼節の欠片もない
胴間声が早朝の雀の竹藪に響き渡った。

「うりゃぁぁ! 今日も絶好調じゃぁぁぁ!」

「はしたない。 慎みたまえよ、野蛮雀。」

「なんじゃとぉ!? 佐吉ぃ、もういっぺん言うてみいぃ!」

「何度でも云ってやろう。 
 市松、君は下品で粗野で単細胞で暴力的で、知性の欠片もない蛮雀だ。」

「うりゃぁ! 佐吉ぃぃぃ! 覚悟せいよぉぉ!!」

「ふん、 頭の悪そうなデカい声だっ!」


・・・・・・は! こいつら!!

虎之助は思わず、プッと吹き出し、
慌ててこの全く必要のない、然し殆ど毎日行われている、
くだらない喧嘩の仲裁に飛び出していった。

「おまいら! いい加減にせんか!!」







三羽の起す喧噪に揺れるかのように、
ひっそりと咲く小さな花が以下の様に呟いたが、
早朝の澄んだ空気に消えいったその声に誰も気がつかなかった。

薫「虎兄様、まだまだ此方には来れそうには有りませんね……(笑)」




 













11NOV14 SZM 002TK


いつも読んで下さっている皆様、有難う御座います。



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