福島市松、蝸牛を観察する


雀の世界にもいろいろなドラマがある。
彼らもまた、
人間と同じように悩み、喜び、毎日を懸命に生きているのだ。

今回は、福島市松のある小さなエピソードを紹介する。





福島市松、蝸牛を観察する

福島市松は怒っていた。
彼が怒っているのはいつもの事であり、
その原因のほとんどは、
他人には理解しづらい些細な事なのであるが、
とにかくイライラしていた。
秀才を鼻にかけたような佐吉のあのしたり顔に
しょんべんでもひっかけてやれば
きっと爽快な気分になれるだろう、などと、
はた迷惑な想像を巡らせたが
そんな事では気分は変わらない。

「どれ、ひとつ隣の村にでも行って、ひと暴れしてくるか!
かあちゃんと喧嘩は尾張の花じゃ!!」
市松には、無駄に体力が溢れていて、
いつもそれを持て余している。

彼の村がある竹藪を抜け、
この迷惑千万な暴れん坊は
真っ直ぐに隣の村がある林を目指す。
その目は血走り、心臓は激しく打っていて
今にも口から飛び出しそうだ。
荒ぶる感情をこれ以上長く押さえつけていると、
そのうち爆発するのではないか…… 
一刻も早く暴れたい!!

さて、隣村の林が見えてきた。
市松は一旦、近くの潅木にとまり、
村の様子を伺っている。
と、その市松の目の前の枝に、
小さな何かが動いている。
「あん? 何ぞ、こりゃ??」

よく見ると、それはとても小さな蝸牛であった。
まだ生まれたばかりであろうか、
殻は半透明で頼りなく、
その下につく身体も雀の涙ほどの大きさしかない。
それでも、生きる意志に満ち溢れたこの生命は、
伸びた角の先にある目を、せわしく動かせて、
初めて見るであろうこの世界を、
隅々まで観察しようとしている。
進行は何だか定まらず、
右に左にウロウロして、真っ直ぐには進めないが、
生きている、自分の力で進んでいる、という喜びが
全身から感じられるかのようだ。
この世界に誕生した喜びに、その魂は恍惚としている。

蝸牛は、ただひたすらに、懸命に進んでいる。




市松は、しばらくその小さな生命を見ていた。
じっと見ていた。
嘴を半開きのままで見ていて
そのうち涎が垂れてしまったが、
それでも、見ていた。

そのうち蝸牛は、
枝をウンウンとようやく登って
その先の葉の陰に這入ってしまった。

小さくそして懸命な、
真砂の一粒のようなこの生命体が
市松の目にどう映ったのかは本人にしかわからない。

が、この暴れん坊は、ふと、
何か水を差されたように感じて
今日の喧嘩はやめることにした。




23DEC14 SUZUME 029IC





いつも読んで下さっている皆様、有難う御座います。


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