オフィーリア、雀の娘たちと食事を共にする


雀の世界にもいろいろなドラマがある。
彼らもまた、
人間と同じように悩み、喜び、毎日を懸命に生きているのだ。

今回のお話には、例の雀三娘が再登場する。





オフィーリア、雀の娘たちと食事を共にする

ある冬の朝、
空は真っ青に晴れて風の強い朝のことである。
三羽の雀の娘たちが、
いつもの餌場で朝餉を食している。

少々お転婆な食べ方をしているのは、
一丈青扈三娘だ。
細見に締まって顔立ちも凛々しく、
その外見に違わぬ武術の達人、
いや、達雀であるこの娘には、
(意味はよくわからないが)
「一丈青」という立派なあだ名がついている。
実は、豪族の令嬢である。

ロシアからの転生雀と噂される那須妙子は、
明るい娘らしく溌剌と食事を楽しんでいる。
彼女の若い瞳は、
これから始まる今日一日に
夢と希望と楽しい何かだけを期待している。
若い娘が夢見がちで常に明るく前向きなのは、
雀も変わりはしないのだ。

食事の動作一つひとつにまで
作法の折り目がきっちりついている
上品な雀は、小弓という年長の娘雀だ。
ゆったりとしたその嘴運びは都の作法を思わせる。
扈三娘と妙子がおしゃべりしているのを
優しく見守る姉の優しさを持つ。

三羽は、餌場に盛られた玄米を
それぞれの器に移して食している。
雀の娘が使うお茶椀は、
銀杏の殻を加工して着色した
可愛らしいものだ。
扈三娘の器には
持ち主の趣味が一目でわかる
勇ましい刀剣が描かれている。
妙子の持つ器にはマトリョーシカ風の模様があり、
小弓の使う器は風雅な京風の高級品だ。

さて今、
この餌場に一羽の変わった鳥が近づいてくる。
明らかに雀ではないこの鳥は、
遠くから三羽をしばらく見ていたが、
ちょんちょんと跳ねて
少しずつ近づいてくる。

「貴方も召し上がるの?」
最初に気付いた扈三娘が尋ねると、
その鳥は黙って頷くような素振りを見せた。
鳥は、黒い硬そうな器を下げている。

「まぁ、変わった器ね。 ちょっと拝見。」
鳥の持っていた野暮な外見の器を
扈三娘が何の遠慮の素振りもなく取り上げた。

「あら、まるでこれは黒いわ。」
「それに何だか不格好ですわ。」
それは、栗を加工したものであったが
何の装飾もなされていない素っ気ない器であった。

「貴方たち! 失礼でしょう! お返ししなさい!」
小弓が扈三娘と妙子を叱りつける。
二羽は、バツの悪そうに器を返した。

「御免なさいね、どうかお許し下さいましね。」
小弓が鳥に頭を下げた。
「まったくこの子たちは、礼儀も作法もなっていなくて、云々、云々……。」
小弓がしどろもどろに
謝っているが、然し、その変わった姿の鳥は何も言わない。
小首を傾げているだけである。
どうやら言葉が通じていない。

扈三娘が一歩前に出て、
自分を差しながら言った。
「私は扈三娘。 おわかりかしら? こ、さ、ん、じょ、う。」
妙子がそれに続く。
「私は那須妙子。 た、え、こ。 た、え、こ。」
小弓がゆっくりと笑って
「小弓。 こ、ゆ、み。」
と二羽に従った。

異国風の鳥は、長い羽で自分を差して
透き通るような美しい声で言った。
「オフィーリア。」



四羽の若い鳥たちは、
卓を並べて食事を共にしている。
言葉は通じないけども、
目と目で会話が出来て、歌で気持ちが通い合うのだ。
楽しい朝食となった。
扈三娘と妙子は、
オフィーリアの器を侮辱したことを
強く後悔していた。

今日も、若い鳥たちの一日が始まる。





23DEC14 SUZUME 036 OPHELIA







いつも読んで下さっている皆様、有難う御座います。



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