河原村伝兵衛、ダンプを追って飛ぶ


雀の世界にもいろいろなドラマがある。
彼らもまた、
人間と同じように悩み、喜び、毎日を懸命に生きているのだ。

今回は、師走の夕暮れにある雀が遭遇した
こんな物語を紹介しよう。





河原村伝兵衛、ダンプを追って飛ぶ

ある冬の日の夕暮れ、
河原村伝兵衛という雀の村の足軽が、
電線にとまって夕陽を眺めつつ
そろそろ巣へ帰って休もうか、などと、ぼんやり考えていた時の話。
ふと見下ろすと、
人間の子供、七歳くらいであろうか、女の子が二人、
その身長にあった小さな自転車に乗って、
ふらふらと頼りなく走行していた。

二人は公園からでてきて
今まさに道路を横断しようとしている。
道路に信号はないが、横断歩道はある。
横断歩道の手前でしっかりと停車し、
二人は元気に真っ直ぐと手を挙げて、
道路を渡る意思を示した。

併しである。
師走の夕方の事、車は誰も停まってはくれない。
一見して社用車とわかるステーションワゴンや、
ピカピカに輝く高級乗用車、
スーツなど、きちんと身なりの整った男性が
それら車両の運転席に見える。
併し、誰も、誰一人として、
横断歩道の手前で手を挙げている
自転車の女の子たちに、一瞥もくれない。
見えているはずなのに、誰一人として
「見えないふりをしている」のだ。

伝兵衛は、へん!と鼻を鳴らし、
「人間なんてやっぱりこんなもんじゃ!」と、
すっかり嫌な気分になってしまった。


二人の子供たちは
依然として手を挙げたまま、
右を向き、左を向き、又、右を向き、
速度を上げて行き交う車を
せわしく目で追っている。

最初は笑顔だったその表情は、
今は不安に慄き痛々しいほどで
その幼い目には涙が滲んでいる。

彼女らは、家に帰る為に必死なのだ、懸命なのだ。
暗くなる前に、何としてもこの道路を渡ってしまいたい。……

併し誰も止まりはしない。

一体いつになったら車は停まってくれるのか?
他人事ながら、そろそろ伝兵衛は心細くなってきた。


そうこうしているうちに、
向うから真っ黒なダンプカーが迫ってきた。
その漆黒の姿は巨大な怪物のようだ。
轟音と共に失踪してくるその圧倒的な質量からは
恐怖と威圧しか感じられない。
悪意を形にしたようなその姿は、
(伝兵衛にはそう見えた)
この世の敵意と暴力と無秩序とを具現化したものに相違ないのだ。
(くどいようだが、これは伝兵衛視点である)

伝兵衛は何の疑いもなしに、
この車もこのまま通り過ぎるだろうと信じ、
その後方の車に早くも期待を移していた。
ところが、である。……




その漆黒の巨体は、横断歩道手前数十メートルから
余裕を以て減速し、
ふぅという溜息のような大きな音をたてて
横断歩道手前の停止線で、ゆっくりと停車した。
女の子たちの表情が、とたんに明るく輝きだす。

真っ黒な山のような巨大な車両は
優しく女の子たちに視線を落とし、
それから、キッと反対車線に視線を移して
未だ止まる気配のない車たちを
鋭く睨んで射すくめた。
畢竟、足が竦んだ反対車線の車は停車する。

<安全は確保出来た>

ダンプカーは暖かい太陽光線のような視線をもって、
子供たちに横断を促す。
二人の少女は、圧倒的な存在に守られているという絶対の安心の中、
元気いっぱいに自転車をこいで
横断歩道を無事に渡り、
其々の家へと帰って行った。

そうして、
ダンプカーは何事もなかったかのように
ゆっくりと発進した。
徐々に加速していくその姿は、
夕陽に滲んで、ゆらゆらと揺れている。
最初は巨大な怪物に見えたその姿は、
今や優しいクジラの背中に見える。
伝兵衛はどうしてもダンプと並走したく、
気が付いたら、電線を離れて勢いよく飛び立っていた。







PC100004DEC14.jpg

*今回のお話は作者が遭遇した実話に基づいております。






いつも読んで下さっている皆様、有難う存じます。


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