市松、卒業試験を受ける (後編)


市松、卒業試験を受ける (後編)

運命の朝である、ついに試験の日となった。
市松雀は重い頭をあげ、
鈍く羽ばたきながら学校へと向かう。

追いついてきた虎之助は、
その表情に余裕が見られる。
こいつはいつもそうだ、何事も如才なく器用にこなす。
幼い頃からずっと一緒に育ったが、
何故にこうも自分とは違うのか。
なぜにこうも自分は不器用なのか。
市松は一瞬、ちょっとひねくれたけども、
(まぁしかし、腕っぷしなら絶対に自分のほうが上だ)
などと思い直して、密にほくそ笑んだ。
そんな市松を、虎之助は優しく見ている。

試験会場では、
開始時間までは皆が懸命に最後の努力をしている。
食い入るように本を読む者、
単語カードをペラペラと捲る者、
皆それぞれだが、佐吉だけは余裕で居眠りしている。
こいつの態度はいつも嫌味たっぷりだ。
市松はまたもひねくれた。

そうこうしているうちに、試験開始となった。
尾張では、政治学と共に経済学が重要視されている。
これは、国の領主の方針であり
この国が強国となった要因の一つである。
最初の試験は、尾張に於ける経済の発展史だ。
市松は答案用紙を前にし、うぅむと唸って首部を垂れた。

静まり返った室内に、筆の走る音だけが響く。
市松の額に脂汗が滲み、羽はプルプルと小刻みに震えている。

市松と経済学とは何の関係もない。
徹底的にない。
そもそも、試験なんて事に意味はあるのか?
こんな紙切れひとつで自分の価値が判断されるのか?
否、そんな不条理はあってはならないはずだ。
だいたい、社会に出れば学問など何の役にも立ちゃしない。
(いや、虎之助の得意な築城術は役に立つかも知れない)
しかしとにかく、政経なんてくだらないものは、
頭でっかちの佐吉あたりにやらしておけばいいのだ。
そうだ、自分の本分は武道である。
戦場で、殿雀の為に存分に働くことである。
こんな試験で自分の価値を否定されるのは不本意極まりない事だ。

いろいろ考えてはみたが、答案用紙は依然として真っ白である。

こうなれば、市松に残された道はただ一つだ。
この真っ白な答案用紙に
自分の存在価値を長々と書き記し、
教師たちに思い知らせてやる事……!
決意の市松は、雄々しく筆をとった。

『私こと福島左衛門太夫市松は在学中、
雀拳闘にこの身を捧げてきた。
クチバシや羽毛、この全身を血に染めて戦ってきた。
それもこれも、全てはこの学校の名誉の為であった。
我が身を張って学校の為に尽くしたのだ。
卒業資格の是非決定の際には、
このような馬鹿馬鹿しい試験の点数などではなく、
私の尊い自己犠牲の精神と学校への多大なる貢献を
何としても御考慮いただかねばならない。
それを先ず述べておく。

さて今、この尾張の国は吉法師様の御指導の元に
更なる発展を遂げようとしている。
自分は、この学校で培った雀拳闘の技術を以て、
その発展に少しでも尽くしてゆく所存である。
身を粉にして奉公するつもりである。
その時、世間は必ずや知るであろう。
福島左衛門太夫市松の本領は学問ではなく、
武に於いてこそ発揮されるのだ、と。

私がこの学校で身につけたものは、
国の発展に必ずや役立つであろう事が明明白白な、
(先のリーグ戦によっても証明された)
この類い稀なる雀拳闘の技術である、この腕っぷしである。
この学校で鍛えられた私のこの武が、
将来、この尾張国の為に役立つ事が
最早一目瞭然の事実である以上、
このような試験は意味をなさないものと断言出来る。
何故なら、私の卒業試験は、先のリーグ戦に於いて終了しているからだ。
私がこの学校で身につけたものは武であり、
その高い技術は既に証明されているからだ。
私は、誰よりも純粋で崇高で質の高い卒業の資格を既に有しており
その厳然たる事実は、誰もが知るところである。

私は唯、それだけを主張したく、今回この訴えを上奏するものである。
その為、敢えて試験問題は無回答とした。
それを御考慮頂き、どうか卒業させて下さい、お願いします。』





市松の留年が決定したのは、その日の午後の事であった。










留年が決まりヤケ食いをする市松と、その姿を見守る虎之助と佐吉。
この三羽は再登場するかもしれません。


2014-10-07 07OCT14 KC 001thetrio


いつも読んで下さっている皆様、有難う御座います。

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