市松、卒業試験を受ける (前篇)


雀の世界にもいろいろなドラマがある。
彼らもまた、
人間と同じように悩み、喜び、毎日を懸命に生きているのだ。

今回は、弥助雀がこんな話を聞かせてくれた。
雀の学校も又、ドラマの宝庫である。




市松、卒業試験を受ける (前篇)

福島市松は学生雀である。
彼の通う学校はスポオツの名門校で、
市松は、雀拳闘という競技の選手である。
同期に、加藤虎之助という良きライバルがある。
秀才肌の石田佐吉とは、なんだか反りが合わない。

市松は、書生の身でありながら学問はそっちのけであった。
元より、本を開くと眠くなる体質だ。
これは生まれつきなので彼を責める事は出来ない。
市松が持ち歩く専門書は既にアクセサリイと化していた。

そんな市松であるが、雀拳闘の腕は一流であった。
先日行われた、尾張雀拳闘リーグ戦に於いては、
彼の活躍もあって市松たちの学校は一位の座に輝いた。
市松は最優秀選手賞、虎之助は優秀賞を受け、
これは実に喜ぶべき事であったのだが、
佐吉が技能賞に選ばれたのが市松は気に入らない。

さて、そんな彼らにも卒業の時期が来た。
ここで市松は重大な試練に直面する事となる。
学校を卒業するには、卒業試験に合格しなければならないのだ。
ずっと雀拳闘にその青春を捧げてきた市松には
試験の事など頭の片隅にもなかった。

この点、虎之助は如才なく準備を怠ってはいない。
日頃からコツコツと積み上げた努力で、
試験対策は既に万全といってよい。
虎之助は文武両道のバランスが取れた雀だ。
佐吉にいたっては、学問こそが彼の真骨頂であるので、
余裕の態を示し、呑気に珈琲などすすっている。
市松は焦った。

さて、本を開きはしたが、市松の頭は鋼鉄のように硬く、
本の内容を頑固に跳ね返す。
そうだ。 
本来、市松と学問は無縁であるはずなのだ。
縁が無いものは、どうにもならないのだ。
市松は開いた本を溜息と共に閉じ、
無駄な足掻きは止めることにした。
流れに逆らうは溺れるのことわり、ト昔から言うではないか。
いかに駿馬でも空を飛ぶ事は出来ないのだ。
柳は緑、花は紅、である。

どうにか道理を通し、自分を正当化する事は出来たが、
併し現実、明日に迫った試験はどうにかしなければならない。
規定の得点をあげなければ
留年という屈辱にその身を晒す羽目になる。
そんな生き恥は、誇り高き市松には耐えがたい不名誉だ。
市松は頭を抱えた。
その頭は、火照っいて熱い。

こうしている間にも、試験の時は着実に迫って来る。
試しに時計を破壊してみたが、
西の空の夕焼けは次第に濃くなってゆき、
やがて濃い紫へと変わっていった。
時は止められない。
市松は寝ることにした。
十分な休養を取る事こそ、
今の彼に出来る最大の試験対策なのである。
福島左衛門太夫市松は、彼なりにベストを尽くしているのだ。

(後編に続く)






いつも読んで下さっている皆様、有難う御座います。


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