平蔵、出征する


雀の世界にもいろいろなドラマがある。
彼らもまた、
人間と同じように悩み、喜び、毎日を懸命に生きているのだ。

今回は、ここより遥か南西にある大きな火山の大地の
そのまた南の地方での出来事、
まだ少年の面影を残した
平蔵という若雀の物語を紹介してみる。

これもまた、我が家に飛来する弥助という若雀より聞いた、
極めて貴重な物語である。






平蔵、出征する

自然界は決して太平ではない。
鳥たちの生活も又、同じだ。
餌場の縄張り争いから
戦になることは珍しくなく、
現に、その時もある南の地方で大規模な戦が起こっていた。
ヒヨドリとムクドリの連合によって、
雀たちの大事な餌場の支配が危機に瀕していたのだ。
自然界は決して太平ではない。

平蔵という少年雀は、
身なりも小さく、いかにもみすぼらしい。
まるまると健康的な雀たちの中にあって、
物心ついた時から天涯孤独の身であるこの若雀は、
一羽だけ、悲しいほどに痩せて貧弱だ。
そんな平蔵にとって、この雀の国の危機は
ある意味での好機であった。

平蔵雀は、
子雀の頃から馬鹿にされて育ってきた。
たった一人で世界を相手に戦ってきた。
悔しい思いと暗い孤独だけが彼の友達だった。
踏みつけられる冷たい泥濘の中で、
平蔵はいつか世間を見返してやろう、
自分という存在を認めさせてやろうと、
そんな思いに心を燃やしていた。
この戦は好機である。
なんの後ろ盾もないこの貧しい少年雀にとって、
身を立てるには身体を張るしか手段はないのだ。
平蔵は、防人となるべく兵士に志願した。

「平蔵なんか、戦えるわけないがな。」
「足手まといになるのがオチじゃがな。」

自分を蔑む周囲の声に
平蔵はじっとクチバシの端を噛む。
そんななか、冷静な兵役検査官は非常の決定を下す。
「丙種。 兵役、不適格。」

平蔵は戦えない。
その弱弱しい身体では、戦わせてもらえないのだ。
併しなんとかして、自分も戦に行きたい。
立派に戦うことによって、周囲を見返したいのだ!

平蔵は両親を失って、ずっとひとりだった。
十分な栄養のとれないその身体は、
小さく細く育ってしまい、最早立派な体躯は望めない。
馬鹿にされ、虐められてきたが、
今こそ周囲を見返す時なのだ。
自分という雀を立派に確立する時なのだ。
<大空に羽ばたく好機は今しかない>
諦める事は出来ない。

平蔵の村から、出征の一団が戦地へと旅立ってゆく。
入隊の許可がないままであったが
必死の平蔵は少し離れてその後を追う。

「平蔵、本当に行くんかいな!?」
「やめといたほうがええ、平蔵、死んでしまうがな!」

大きな山のひと塊のような頼もしい雀の兵士一団は
北へ向かって軽快に飛行し戦地へと真っ直ぐに向かう。
その後をパタパタと弱弱しい羽ばたきの
芥子粒のような平蔵が追う。
その姿は、風に煽られて安定せず、
高度も不十分で如何にも頼りない。




それが平蔵の最期の姿であった。
平蔵は帰ってこなかった。
彼がどうなったのかは、誰に聞いてもわからなかった。












いつも読んでくださっている皆様、有難う御座います。

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(2011/10/07)
海音寺 潮五郎

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