秋ハ夏ト同時ニヤッテ来ル


ベランダに弱った蝉が横たわっていた。

かつて、
真夏の陽射しの元で力強く鳴き
蒸すような大気を軽快に羽ばたいた姿は
今はもうない。
微かにその六本の脚で、
私の指先を抱きかかえるように
しがみついてくるのみだ。

無理に指を離すと、
その足は不安そうに空を掻きはじめる。

また指を抱かせると、
安心したように動かなくなる。
この蝉は死の恐怖と戦っているのだ。


庭の木の、枝の付け根部分へ蝉をのせた。
ここなら安定しているので落下の心配はないし、
繁った葉が夏の凶暴な陽射しから弱った身体を守ってもくれる。
蝉は少し動いて、そしてそのままじっとしていた。


間もなくこの蝉は静かな死を迎えるだろう。
然しその死は、安らかで尊厳のある、
立派に生きた命の最後にふさわしいものとなるはずだ。
私は去り行く魂にそっと手を合わせた。






敬愛する太宰治が言っていたが、
秋は夏と同時にやって来る。

秋になり、無残に枯れた桔梗の花も、
ばたばたと黒土を這う蝶も、
そしてこの蝉も…… 皆、夏に生まれるものだ。

生命の隆盛ともいうべき夏の時期に、
静かな秋はすでに始まっているのだ。


私たちの人生そのものとも言える様を
目の当たりにし、

私はまたも、
世の無常に茫然と空を見上げるのみでありました。。









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(2004/10)
太宰 治

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