真珠院にて


修善寺での帰り道、
少々時間が早かったので
前から行きたかったお寺に立ち寄りました。

真珠院、という曹洞宗のこちらのお寺には、
八重姫という平安期の
悲しい姫様を祀るお堂があり、
私は思うところあって、
お参りさせていただこうと思いつつも、
なかなか実現しなくって
この日に至っていたのでした。

実在の方の悲劇を物語るのは
非常に気が引けるので簡単に記しますが、
八重姫とは、源頼朝公との悲しい恋の末に
入水なされた伊東家の姫様で
それはそれはお美しい方だったという
伝説が残っています。

夕刻の日が落ちた薄闇、
静謐な趣のなかに
ひっそりとお堂は佇んでおりました。
傍らには、ミニチュアの梯子が
たくさん立てかけてあります。

この梯子に
私は思わず目頭が熱くなりました。

これこそ、
八重姫様が愛されていた証で、
姫様の死が如何に
世の人々の心を痛めたかを
雄弁に語る生きた証拠なのです。

梯子は、姫をお救いしたかった、
という人々の心が形となったものでした。
姫の入水の川は今はもう流れが変わっていますが
当時は深い淵だったそうです。
その場に、せめて梯子があれば、
沈みゆく姫をお救いできたかも知れない…
そういった人々の思いが昇華し、
こうして梯子をお供えするのが
いつしかの流れとなっていったのだそうです。
私はこの悲しくも美しい伝説に
人々の素朴な誠実を見るのです。

1000年の時が経ち、
今は願事成就のお供えと
その意味は変わりましたけども、
それでもかつての痕跡が
こうして残っていることに、
人の世の尊さを感じます。

見上げた先には
真珠院という場所から見るに相応しい
美しい月がそっと浮かんでおりました。


29DEC17 SHUZENJI 024





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修善寺にて(後編)


修善寺宝物館、
そこで私が目にしたのは・・・

なんと、北条政子様の直筆の書でした。
世にどれだけ政子様の書が残っているかは知りませんが、
なにしろ平安期~鎌倉幕府の時代の人です、
相当に貴重なのではないでしょうか。
そういった時代的な要素もあるのですけども、
私がいたく感動したのは!
その書がッ!
政子様直筆というこの事実!
そこに筆をとった政子様が在り、
実際に記されたというこの歴史!
そこなのです!

興奮して少々JoJo風になってしまいましたが、
なにしろこの時は書を前にして
動悸と興奮と手足の震えに
卒倒しそうになったのは大げさでない事実です。

よろめきながら歩を進めてゆくと、
ガハッ!
次は吐血するほどの衝撃に
全身を硬直させることとなったのです。
落雷の直撃と迎え放電で
筋肉という筋肉が痙攣し、その後の硬直から
筋繊維一本一本が解放されて塵と化し、
もはや私の肉体は消滅して
森羅万象と一体化するほどのインパクトでした。
私は人を超えていたのです。

なんと、そこには、仏像の体内に収められた
(おそらく)政子様のものと思われる
3束の黒髪が展示してあったのですよ。

1000年前のものとは思えないほどの、
黒く濡れた艶々しい髪は
まさに、まさに、
日本最高の女傑というに相応しい
神々しいほどの輝きを放っており、
正直なところ、私はもう、その御威光に
呆然と立ち尽くすしかなかったのです。
こういった感動を文字で表そうとすると
実に陳腐になってしまいがちですが、
言葉がないとは正にこのことでした。

更にこの次、伊勢新九郎(北条早雲)が
討ち死にした武者を供養する為に
血で記したという経文を見るに至り、
私は最早、ヒーハーヒーハーと、
ダースベイダーのような呼吸をするのがやっとで、
ほとんどもう、半死半生の状態で
宝物館を後にしたのでした。

あれほどの衝撃を受けたのは
実に久しぶりでした。
矢張り、人生とは素晴らしいものです。
一歩の先に
どんな驚きが待っているかわかりません。



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修善寺にて


年末、ふらりと修善寺へ行った。

この地は、頼朝公嫡男の流刑地であり、
更に漱石大患の地でもあるので
少々イメージは良くないかもしれないが、
されど、その景色は何とも風流で美しい。
山間に現出した小京都の
更に縮小版といった趣だ。

文化的な美だけでなく
自然科学的な美もまた、素晴らしい。
周囲を見渡すと、
いかにも若い火山群といった
急峻な山々の間を
澄んだ川が浸食も深く走り、
その川底には分厚い溶岩の岩盤が
肌の一部を見せていて
地球の神秘を伺わせているのだ。
伊豆は地質学の大地!

などと無作法にはしゃぎながら
辺りを散策した訳だが、
私の如き野暮であっても
風流を解するふりだけでもしたいので、
気取りながら修善寺へと足を運んだ。

お参りをすませ、
敷地内の宝物館を見学することにした。
中国の古い仏像が展示してあるらしい。
期間物なので、この機を逃すのは痛い。
限定品好きな日本人としては
見学しなければならないだろう。

さて、中はこじんまりと心地よい。
他に人もいないので
ゆっくりとこの世界に浸れそうだ。
心は澄んでいる。落ち着いている。
あの年末の喧騒が嘘のようだ。

展示の仏像群は、
なるほど貴重と云われるだけあって実に見事だ。
一言で云うと、静謐。
千年以上、中国から日本へ、
長い時間と長い道程の間で
この深く静かな瞳は、
一体どれだけの人々の祈りを
受けとめてきたのか。

さて、こうして歩を進めてゆくうち、
私はとんでもない品を目にすることになった。
驚愕天地とはこのことな訳だが、
少し長くなったので次回にしよう。
正直、腰を抜かすほどでした。




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