虎之助、妹に会う


雀の世界にもいろいろなドラマがある。
彼らもまた、
人間と同じように悩み、喜び、毎日を懸命に生きているのだ。

暴れん坊の福島市松が
唯一心を許す友人、加藤虎之助は心優しき好青年だ。
今回は、虎が或る夜みた夢の話をしよう。
優しい男とは、
常にこうして心に傷を負っているものなのかも知れない。





虎之助、妹に会う

加藤虎之助は夢を見た。
夢の中で虎は、十年程前に死別した妹と再会していた。
妹の名は薫という。
薫は、あの頃と変わらぬ姿で虎の前に現れた。
昔の通りの可愛らしい翼、
昔の通りのちょっと跳ねた頭部の羽毛、
そして昔の通りに左目の下には、
やっぱり小さな涙ボクロがある。

「君は全然変わらない。」
「虎兄様は、すっかり大人になられました。」
「あの時オレは、本当に悲しかった。」
「仰らないで下さい、私も同じなのですから。。」
「あの時何故君は、去らねばならなかったのだろう……。」
「去らねばならぬその時だったからです。。」



薫は変わらず美しかった。
輝くようなその若さと純潔は、
今はもう亡くなった命とは思われなかった。
断じて、断じて思われなかった。

「虎兄様、それは現世での事に御座います。」
薫は、虎之助の心を読むように、そっと呟いた。



「然し、薫よ。
 今、この現世が私にとっての現実なのだ。
 その現実に、君は最早いない。
 手を取り合って笑う事すら出来ないのだ。
 これは覆す事の出来ぬ絶対の真実なのではないだろうか?」

「いいえ、それは思い違いです。
 たとえこの世界に私は在らずとも、
 こうして心で会話する事も出来るではありませんか。
 私の心は、常に虎兄様と共に在るのです。」

優しき青年、加藤虎之助の頬を一筋の涙が流れ落ちる。



「虎兄様、時間です。 もう行かねばなりません。」
「薫よ、ひとつ教えてくれ。
 何故、私の時は流れ、君はあの時のままの姿なのだ?」
「それは、虎兄様が、まだこの世界でやらねばならぬ事があるからです。
 やるべき事を成し遂げるまでは、
 虎兄様はこの時間の中を旅せねばならないのです。
 それは決して苦行ではありません。
 虎兄様を必要とする誰かの為に生きる事は、
 生命の喜びの根源なのです。 命の輝きの源なのです。」


「虎兄様、私があの頃の姿のままなのは、
 あの頃が私にとって、一番幸せだったからです。
 だから私は、今もこうしてあの頃と寸分違わぬ姿でおりますのです。」


「虎兄様、父上母上が亡くなった後、
 私を必死で守って下さったのは虎兄様でした。 
 虎兄様、愛しております。 愛しております。 愛しております。 あいし・・・」







目覚めた時、
虎之助の枕は涙に濡れていた。

彼はそっと、「薫……」と呟いてみたが、
その先には黒洞々たる深い沈黙があるのみであった。

虎之助は、ぐっと嘴を噛みしめて
今にも、もう本当に泣き崩れそうになったその時、

「おぉい!虎!起きちょるかぁぁ!!」

野蛮で下品で乱暴で礼節の欠片もない
胴間声が早朝の雀の竹藪に響き渡った。

「うりゃぁぁ! 今日も絶好調じゃぁぁぁ!」

「はしたない。 慎みたまえよ、野蛮雀。」

「なんじゃとぉ!? 佐吉ぃ、もういっぺん言うてみいぃ!」

「何度でも云ってやろう。 
 市松、君は下品で粗野で単細胞で暴力的で、知性の欠片もない蛮雀だ。」

「うりゃぁ! 佐吉ぃぃぃ! 覚悟せいよぉぉ!!」

「ふん、 頭の悪そうなデカい声だっ!」


・・・・・・は! こいつら!!

虎之助は思わず、プッと吹き出し、
慌ててこの全く必要のない、然し殆ど毎日行われている、
くだらない喧嘩の仲裁に飛び出していった。

「おまいら! いい加減にせんか!!」







三羽の起す喧噪に揺れるかのように、
ひっそりと咲く小さな花が以下の様に呟いたが、
早朝の澄んだ空気に消えいったその声に誰も気がつかなかった。

薫「虎兄様、まだまだ此方には来れそうには有りませんね……(笑)」




 













11NOV14 SZM 002TK


いつも読んで下さっている皆様、有難う御座います。



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福島市松、名を連呼される


雀の世界にもいろいろなドラマがある。
彼らもまた、
人間と同じように悩み、喜び、毎日を懸命に生きているのだ。

今回は、最早常連となりつつある市松雀の
ある日常をお話する。





福島市松、名を連呼される

福島市松は、雀拳闘の名手である。
彼の率いる大学チームは
先の尾張大会では優勝を果たしたし、
その腕っぷしの強さは天下に響いている。

然し、市松はただの運動馬鹿ではない。
実は学問に於いても
「今張良」と称されるほどの天才なのである。

さて、今日も市松の家には沢山の学者や書生が訪れており、
彼に教えを乞うている。

「市松さん、ニーチェの永劫回帰について、これこれ云々…」
「先生、静止トランスファ軌道に軌道変更する際に…」
「バルビゾン派が明治日本へ及ぼした影響についてですが…」

「そもさん!」
などと、禅問答を仕掛けてくる者までいる。

ポアンカレ予想、ミランコビッチサイクル、ロシュ限界……
難解な用語が飛び交い、
ありとあらゆる分野の質問が、市松に投げかけられる。

市松は珈琲片手に
全ての質問に軽快に答えてゆきながら、
「なかなか見込みのある者たちじゃ、己らは!」
と、満足そうに深く頷いて、集まった雀たちを見渡した。

質問会もひとしきりに落ち着いた中、
唐から来た二羽の雀のうちの一羽が、
立てかけてあった楽器の蓮華と孔雀の模様を見て、
「捨身惜花思」と、思惑深げに云った。
それに対してもう一羽の唐雀が、
「打不立有鳥」と答えたのであるが、
さて、これはどういった意味であるのか、と、
集まっていた雀たちは、熱心な討論を始めた。

あぁではない、こうではない。
いや、きっとこうだ。
何を言う、こうに相違ない!
いやいや、それは見当違いだ、云々云々・・・

皆が混乱を極め、議論も白熱してきたその時、
市松は颯爽と立ち上がって、
持っていた扇にの裏に、さらさらと何事か書き流し、
興奮している雀たちの中へ投げ入れた。
その市松の遣わした歌が、以下である。

身を捨てて花を惜しやと思ふらむ打てども立たぬ鳥もありけり


・・・・・・・・・・・・・・・・

一瞬、場は水を打ったように静まりかえり、
その直後に怒涛のような歓喜の叫び声が
天を突いて湧き上った。

「おぉ! 流石は市松先生!」
落雷の様な感激に打たれ、感極まった雀たちは、
翼を羽ばたかせながら一斉に市松の名を叫んだ。
「市松様! 市松様! 市松様ァァ!」
「市松様! 万歳!」
「感動しました、市松先生!」
皆の叫びは段々と一つにまとまって
大合唱となってゆく。

いーち、まつ! いーち、まつ!
いーち、まつ! いーち、まつ!


今や、彼の教養を讃える雀たちの声は、
天地を割らんばかりだ。

いーち、まつ! いーち、まつ!
いーち、まつ! いーち、まつ!


いーち、まつ! いーち、まつ!
いーち、まつ! いーち、まつ!

いーち、まつ! いーち、まつ!
いーち、まつ! いーち……












「ふぅぅぅ… なかなか気分ええ夢じゃったのぉ。」

市松は目覚めた。
さて、今日も学校だ。







01JAN15 MIJOU 002FI



いつも読んで下さっている皆様、有難う御座います。

流星の夢 (JAN15)


2013年秋に掲載したものに
若干の変更を施して再掲載してみます。





ある夜、私は夢をみた。

夢のなかで私は、
夜の草原に立っていた。

広大な草原の真ん中で私は、
花とそらを想いながら
「星めぐりのうた」を歌った。

その歌は霧のように周囲にひろがって、
ゆっくりと螺旋を描きながら
星空にむかって伸びてゆき、
光輝く天氣燐の柱となった。

真っ白な柱が
高く高くそびえたったとき、
星がひとつ夜空を流れた。

私は流れ星に願いをかけた。

「どうか花とそらを返してください。」








私はその時、実際にそう呟いた事をきっけに
目を覚ましてしまった。
夢はそこで終わり、
果てしなく感ずるほどの長い長い夜の途中に
私はたった一人取り残されてしまった。

古井戸の底を思わせる夜の静寂は、
流れ星が願いを聞いてくれなかった現実を
私に冷たく知らしめた。





2014-10-18 18OCT14a





いつも読んで下さっている皆様、ありがとうございます。

古馬乃秀邦、人形に心を痛める


雀の世界にもいろいろなドラマがある。
彼らもまた、
人間と同じように悩み、喜び、毎日を懸命に生きているのだ。

今回は、ある悲しい母雀のお話である。





古馬乃秀邦、人形に心を痛める

ある秋の日、
古馬乃秀邦(こばのしゅうほう)は
刈り入れの終わった田圃で落穂ひろいをしている。
秀邦だけではない。
他にも多くの雀たちが、
人間たちが刈り落とした落穂を拾って
午後の食事を楽しんでいる。
秋独特のややオレンジ色がかった太陽光に照らされた
長閑な光景だ。

さて、今、ある夫婦の雀がこの田圃に飛来してくる。
どこにでもいる初老の雀夫婦であるが、
ひとつ、決定的に尋常でない特徴が
妻の雀に見られる。
秀邦のすぐ近くに、この夫婦は着地してきた。

妻の雀は、彼女の半分もあろうかという
大きな雀の人形を背負っていた。
その人形を翼で抱きかかえ、
落穂を拾っては動かぬ嘴へ押し込もうとしている。
「さぁ、食べなさい。 美味しいお米だわよ。 
 おあがりなさいな。」

人形の口元は、
食べ物のシミであろうか、薄く汚れている。
人形の嘴からはお米がポロポロとこぼれているが、
彼女は一向に気にしない。
秀邦は夫の雀と目が合ったが、
夫は、子供連れで失礼、とでも言いたげに
軽く会釈をしている。
人形は、帝大の制帽をかぶり
胸元には金釦が誇らしげに輝いている。
妻は、相変わらず落穂を拾っては
人形の嘴へと運んでやっており、
何事か話し続けている。

もはや明白であった。
人形は息子なのだ。
それも、その汚れ方から判断して、余程に以前の事である。
妻の乱心を抑えるために
夫があてがったものなのか、
正気を失ったこの妻は、
最早、人形を手放す事は出来なくなっていよう。
そして、きっとこの先、ずっと本当に一生涯、
彼女が、息子の「死」という現実を受け入れる事は絶対にないのだ。
妻の時間は止まり、今より進む事はない。

秀邦は、何事も変わった事などないかのように
努めて振る舞っていたが、
やはり、やるせなく苦しい悲しみに胸を痛めていた。
それは、夫婦に向けられたものではなく、
(もちろんそれもあったが、ほとんどは)
天国にいるであろう、夫婦の息子に向けられた
切ない同情であった。
息子がこの母親の姿を見たらきっと悲しむだろう。

しかし、秀邦に出来る事は何もなかった。
秋の空はただ高く、
そこに泰然と広がるのみ。




SATOYAMA 012a

いつも読んで下さっている皆様、有難う御座います。




今回のお話は、小林秀雄先生の「人形」というエッセイを母体としています。

なにもかも小林秀雄に教わった (文春新書)なにもかも小林秀雄に教わった (文春新書)
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木田 元

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雲の上にも都の候ぞ


密雲の隙間から漏れる光の柱は、
空の向うにあるという天国の存在を証明するかのように、
時々、私たちの世界へその姿を現してくれる。

天上のある大いなる意思が、
厚い雲をかきわけて
天国の存在を示して下さっているのだ。

何故だろう?

私たちを安心させて下さる為に相違ない。

「貴方たちの愛する子らは、
 この天国で穏やかに暮らしている。
 だから、心配せずに、今の世界での役割を果たせるよう、
 一生懸命に生きなさい。」


大いなる意思は、私たちにそう語りかけているのだ。




22MAY14 013STH



いつも読んで下さっている皆様、有難う御座います。

小李広、雨上がりの虹に立ちすくむ


雀の世界にもいろいろなドラマがある。
彼らもまた、
人間と同じように悩み、喜び、毎日を懸命に生きているのだ。

今回は、ある雀の村の若き英雄のお話である。





小李広花栄は幼い頃から天才児と謳われてきた。

四書五経、武経七書を諳んじ、
詩歌を詠み、楽を奏で、
雀とは思えぬほど鋭い
黒曜石の如き爪と
胡桃をも砕く臼のような力強い嘴を以て、
彼の村を襲う烏の群れから
たった一羽で民を守ってきた。
その清廉なる人柄もあり、
村の皆が花栄を尊敬し、讃え、頼りにしてきた。
花栄はその期待を裏切る事なく常に捨て身で事に当たり、
身命を懸けて民の生活、生命と財産を守ってきたのだ。
然し、華々しい活躍と功名の影で、
花栄の若い魂は孤独であった。

先日、凶暴な烏の群れが花栄の村を襲った。
その防衛戦に於いて
花栄は腹部を負傷したが、
然しその苦痛を表情には出さない。
彼は常に、
完全無欠な守護神で在り続けなければならないからだ。
その揺るぎなき信頼の元にのみ、
民の安寧は保障される、泣き言は許されない。

鋭い痛みが腹部に悲鳴をあげる。
花栄の額に脂汗が滲んでいるが、
その表情は爽やかだ。
この美しい青年の笑顔は誰をも安心させ、
花栄はその事をよく知っている。
半弓のような眉は見事な曲線を描き
その下には月のような潤しい瞳が光を放っている。
形の良い嘴には気品が漂い、
真っ赤な口唇は薔薇のように気高い。
余裕のある姿に隠された苦痛は、
誰にも知られる事はない。

然し、花栄は若い。
その重責を一身に負ういは彼は若すぎるのだ。

時々、全てを投げ打って旅に出たくなる事もある。
村を離れて、何かを探しに世界へ飛び出したくなる事もある。
花栄は疲れていた。
彼を責める事など誰に出来ようか。

うっそうとした森を飛ぶ。
村を脅かす外敵はいないか、
常に動哨は欠かせない。
雨上がりの森には薄く靄がかかっている。
まるで幻想の世界にいるようだ。
時々落ちてくる水滴と、鋭い負傷の痛みが
時折彼を現実世界に引き戻すが、
フラフラと頼りなく飛行しながら、花栄は最早、
自分が何処にいるのか、わからなくなりそうであった。

遠くに子雀たちの声が幻のように響く。
その声は、段々と近寄ってくるようであり、
ただ遠くを吹く風の音のようにも思えるが、
声はやはり現実のもののようだ。
この子供たちの遊びはしゃぐ声を
これからも守ってゆかねばならないと
ぐっと奥歯を噛むが、
負傷の痛みは全身に脂汗を生じさせる。

その時、花栄は森を思いがけず抜け出していて、
突然開けた視界に驚き、はっと我を取り戻した。
さっきの子供たちが飛び寄って来て何かを叫んでいる。

虹だよ! 花栄さん、虹だよ……!!


なんという静けさだろう

なんという平和だろう

なんという荘厳さだろう


子供たちが指し示すその先の空。
所々、まだ黒雲が流れている雨上がりの空には、
透き通るような、それでいて明確な輪郭をくっきりと描いた、
巨大な虹が頭上いっぱいに広がっていた。
虹とは、これほど大きいものだったか。……

花栄は大きく空気を吸い込んだ。
雨上がりの空気は透き通る清廉さをもって
彼の胸を浄化してくれた。
吐き出す空気には、さっきまで感じていた
疲労や迷いや不安定さや、ありとあらゆる陰性の「気」で染められて
あたかも真っ黒な煙のようであったが、
それらを全て吐き出した時、小李広と讃えられた花栄は、
元の勇者に戻っていた。
否、一回り大きくなっていた。




23DEC14 SUZUME 009 KAEI









人であれば、迷いもするし疲れもする。
悩みもするだろうし、
全てを投げだして逃げ出したくなる事もあるだろう。
そんな時、この物語の若者のように、
自分を繫ぎとめるきっかけに出会えたならば、
その人はきっと幸いだ。
何故なら、この世界に生きる一人ひとりが皆が、
誰かにとっての『花栄』であるからだ。
それを忘れることなく、
我々はしっかりと歩んでゆかねばならない。

さらば、読者よ。 命あらばまた他日。
元気で行こう。 絶望するな。
では、失敬。


いつも読んで下さっている皆様、有難う御座います。







「さらば読者よ、命あらばまた他日。元気で行こう。絶望するな。では、失敬。」
この名言はこちら(↓)。


津軽 (新潮文庫)津軽 (新潮文庫)
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太宰 治

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Avril Lavigne "I LOVE YOU"


2011年の12月に、こんな記事を書いていました。
Avril Lavigne の曲は、
本来の主題である恋愛を他のテーマに置き換えても、
背骨がしっかりしているのでまったくブレが生じません。
それどころか、自らの立場に置き換えて聴いたならば、
恐るべきモンスターソングに変貌を遂げるのです。
これから彼女は、どんなふうに成長してゆくのだろうか。
実に楽しみです。







La la
La la la la...

La la
La la la la.....




A09OCT11 431cute

B02DEC11 206avril



でも、キミたちを愛する理由はそれだけじゃない...




A27OCT11 039smile

B02DEC11 003avril



でも、キミたちを愛する理由はそれだけじゃない...




わかる? わかるかな?
パパが感じていること、わかるかな?

キミたちもまた
同じように感じてくれているのだろうか・・・





A13OCT11 573avrilbeautiful

A04OCT11 188avrilbeautiful




キミたちが

1A20NOV11 038just you

2A02DEC11 142just you



111A09OCT11 252justyouhana

22A18NOV11 016justyousora

Justbeingyou08OCT11 005HANASORA




キミたちが

キミたちのままでいてくれるということ




それがパパが

パパがキミたちを愛する理由・・・










いつも読んで下さっている皆様、有難う御座います。

Goodbye LullabyGoodbye Lullaby
(2011/03/08)
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福島市松、蝸牛を観察する


雀の世界にもいろいろなドラマがある。
彼らもまた、
人間と同じように悩み、喜び、毎日を懸命に生きているのだ。

今回は、福島市松のある小さなエピソードを紹介する。





福島市松、蝸牛を観察する

福島市松は怒っていた。
彼が怒っているのはいつもの事であり、
その原因のほとんどは、
他人には理解しづらい些細な事なのであるが、
とにかくイライラしていた。
秀才を鼻にかけたような佐吉のあのしたり顔に
しょんべんでもひっかけてやれば
きっと爽快な気分になれるだろう、などと、
はた迷惑な想像を巡らせたが
そんな事では気分は変わらない。

「どれ、ひとつ隣の村にでも行って、ひと暴れしてくるか!
かあちゃんと喧嘩は尾張の花じゃ!!」
市松には、無駄に体力が溢れていて、
いつもそれを持て余している。

彼の村がある竹藪を抜け、
この迷惑千万な暴れん坊は
真っ直ぐに隣の村がある林を目指す。
その目は血走り、心臓は激しく打っていて
今にも口から飛び出しそうだ。
荒ぶる感情をこれ以上長く押さえつけていると、
そのうち爆発するのではないか…… 
一刻も早く暴れたい!!

さて、隣村の林が見えてきた。
市松は一旦、近くの潅木にとまり、
村の様子を伺っている。
と、その市松の目の前の枝に、
小さな何かが動いている。
「あん? 何ぞ、こりゃ??」

よく見ると、それはとても小さな蝸牛であった。
まだ生まれたばかりであろうか、
殻は半透明で頼りなく、
その下につく身体も雀の涙ほどの大きさしかない。
それでも、生きる意志に満ち溢れたこの生命は、
伸びた角の先にある目を、せわしく動かせて、
初めて見るであろうこの世界を、
隅々まで観察しようとしている。
進行は何だか定まらず、
右に左にウロウロして、真っ直ぐには進めないが、
生きている、自分の力で進んでいる、という喜びが
全身から感じられるかのようだ。
この世界に誕生した喜びに、その魂は恍惚としている。

蝸牛は、ただひたすらに、懸命に進んでいる。




市松は、しばらくその小さな生命を見ていた。
じっと見ていた。
嘴を半開きのままで見ていて
そのうち涎が垂れてしまったが、
それでも、見ていた。

そのうち蝸牛は、
枝をウンウンとようやく登って
その先の葉の陰に這入ってしまった。

小さくそして懸命な、
真砂の一粒のようなこの生命体が
市松の目にどう映ったのかは本人にしかわからない。

が、この暴れん坊は、ふと、
何か水を差されたように感じて
今日の喧嘩はやめることにした。




23DEC14 SUZUME 029IC





いつも読んで下さっている皆様、有難う御座います。


世界は美しい!(JAN15)


DEC11にこんな記事がありました。
手を伸ばせば、写真の中のこの子たちに手が届きそうです。








はなをみると


A01NOV11 366HStree







そらをみると


B04OCT11 033HStree







はなそらをみると


C07NOV11 018HStree












世界がほぐれてくる












世界がほぐれてくると・・・







まわりのみんな

A15SEP11 025world


B09OCT11 MIYA 015world





楽しい休日

C24NOV11 752world


D24NOV11 757world





小さな生命たちが

E02DEC11 126world







わたくしたちに


こう語りかけているのに気付いてくる






F07NOV11 049world

















見よ、世界は美しい・・・!















谷川俊太郎詩選集  1 (集英社文庫)谷川俊太郎詩選集 1 (集英社文庫)
(2005/06/17)
谷川 俊太郎

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木を見ると
木はその梢で私に空をさし示す
木を見ると
木はその落葉で私に大地を教える
木を見ると
木から世界がほぐれてくる






いつも読んで下さっている皆様、有難う存じます。

源太左衛門、ジョージ氏と語らう


雀の世界にもいろいろなドラマがある。
彼らもまた、
人間と同じように悩み、喜び、毎日を懸命に生きているのだ。

今回は、ある外国雀のお話を紹介してみる。





夕焼けに染まる港を見下ろす公園のこの大銀杏に、
いま、雄の雀が二羽、翼を休めている。
落ち着いた雰囲気の大人の雀と
エネルギイに満ちた目をした若い雀だ。

大人の雀は名をジョージ氏という。
遥か海の向うの桑港(San Francisco)という都市から
十年程前に、この島国に来た。
若雀の名は、源太左衛門。
まだ見ぬ異国の地に憧れており、
いつか刀一本背負って
この国を飛び出したいと考えている。

「私はいつか、桑港に渡りたいと考えております。」
「それはいい。 若いうちに世界を見てまわりなさい。」

ジョージ氏は、遠くを見るように目を細めた。
日本種に比べて濃い茶色の羽毛に包まれた横顔が、
美しく夕陽に染まって朱に滲んでいる。
いつもの変わらぬ穏やかな表情ではあるが、
その瞳の深淵に、微かな、
煌々と輝く月にかかった
ほんの微かな薄雲のように微かな、
一瞬の悲しみの影がよぎったのを、源太は見逃さなかった。

(故郷が恋しいに違いない)
源太はそう考えた。
「ジョージさんは、桑港にお帰りにはならないのですか?」

ジョージ氏は、いつもよりも、より一層、
柔和で人懐っこい笑顔を見せながら、
ゆっくりした口調でこう答えた。
「私はこの国に骨を埋めるつもりだよ。」

「何故です? 故郷が恋しくはないのですか?」
ジョージ氏の意外な言葉に、
源太は驚いてしまった。
「だって、そんなに寂しそうなお顔ではありませんか。」

「私はこの国を愛しているんだ。」
ジョージ氏は、博愛を信条とする基督教徒らしい
慈愛に満ちた暖かい目で、
まだまだ人生の年輪を重ねていないであろう
若い源太左衛門を見つめた。

それからゆっくりと視線を落とし、
その先にある外人墓地を見つめながら、こう続けた。

「愛する息子が眠るこの国を愛しているんだよ……。」








01JAN15 MIJOU 003a




いつも読んで下さっている皆様、有難う御座います。

*今回のお話は、一部、作者の実体験を元に構成しています。



私も頑張らなければならない


喜びは束の間の感情であるが、
悲しみは長きにわたって私たちの心に居座り、
深い根を張り広げて心を砕こうとするものだ。
その存在は、
紙に落ちた一滴の墨汁のように明らかで、
包帯に滲んだ鮮血のように明瞭だ。
悲しみは、くっきりとした輪郭で、
いつまでも私たちの心に留まろうとする。

そんな時、
人は、自分だけが例外的な苦難を背負わされており
自分だけが苦しみの人生を歩んでいると考えがちだが、
実は決してそうではない。 
世間の人たちは、
いかにも毎日を飄々と過ごしているかに見えて、
実は心の底では常に何らかの悲しみと戦っているのだ。

毎日を明るく楽しく笑顔で過ごしている人だってそうだ。
岩のように固い表情の
厳格な僧侶だってそうかも知れない。
いつも冗談ばかり言っている人だって、
もしかして、流れる雲を見上げて、
その無常に「心の中で」涙しているかも知れない。
みんな、知らん顔して、顔にも口にも出さないだけなのだ。




この真っ青な冬の空に流れる雲を見ながらこう考えた。
どうやら私も頑張らねばならない。







a01JAN15 MIJOU 082HS
The first sunrise of 2015






いつも読んで下さっている皆様、有難う御座います。


升、試験にて勘違いをする


雀の世界にもいろいろなドラマがある。
彼らもまた、
人間と同じように悩み、喜び、毎日を懸命に生きているのだ。

今回は、弥助雀が雀の学校であった
こんな話を聞かせてくれた。





升、試験にて勘違いをする

正岡升(のぼる)は幼鳥の頃から学問に打ち込んできた。
大原観山という有名な漢学者を祖父に持ち、
物心ついた頃から四書五経など古典の素読を日課とするなど、
その学問の基礎は地下深淵の岩盤の如く堅固なものであり、
畢竟、それを礎石として築かれる学問もまた、
揺るぎなく堂々と、天をも目指す勢いで華々しく発展した。
(……ただ一つ、英語を除いては)

升は英語が苦手であった。
どうにもあれは、いけなかった。
何しろあの線の細い軟弱な羅馬字なる文字がいけない。
アルフアベトオなどと呼ぶらしいが、
舌を噛みそうな発音は、それだけで厄介だ。
今、升の目の前にあるこの試験用紙も、
正直言って、何が書いてあるのか半分以上はわからない。
併しこの試験で一定の得点をあげなければ、
落第の憂き目を見る事となってしまう。
何としても、この試験は突破しなければならない。
その他の科目は寝ていたってパスできる。
「パス」という英語を使う事により、
自分は英語が得意なのだ、と暗示をかけてみたが、
それだけでは答案用紙は埋まらない。

さて、なんとか設問をクリアしつつあるが、
目下、「judiciary」なる単語の意味がわからない。
後半の長文読解などの難解な問題群にゆく前に、
なんとしても前半の肩慣らし問題的な部分で得点を稼いでおきたい。
ここは一つ、同輩に武士の情けを求める事にした。

升の左の席には、福島市松という生徒が座っている。
市松はさっきから、腕を組んで微動だにしない。
岩石のように動かない。
魂が抜けているようにも見受けられる。
市松からの支援は期待出来ない。

右の席には加藤虎之助という気の優しい男だ。
彼は地道な勉強家でもある、力になってくれそうだ。


虎、虎・・・!

・・・なんじゃ?

「judiciary」ちゅうんは、なんちゅう意味じゃったかの・・・?

・・・はん?

「judiciary」じゃがな、「judiciary」・・・

「ほうかん」・・・

「幇間」・・・??

そう、「法官」じゃ・・・

おぉ、すまんの! サンキューじゃ、虎・・・!



幇間、幇間・・・・・・
なんぞ英語にも
幇間(宴会などの太鼓持ち)なんちゅう言葉があるんじゃのう、はっはっ!

升は自信たっぷりに、「judiciary = 幇間」と力を込めて書き込んだ。




さて、升のこの解答が間違っていたのは、わざわざ言うまでもないのだが、
まぁなんとか、本人の思っていたほど結果は悪くなく、
及第点に届く事は出来た。
ほっと一安心の升であったけども……

「ほうかん違い」の件では、後で、
虎之助から大いに笑われてしまったという今回のお話。




20NOV14 026TN14







いつも読んで下さっている皆様、有難う存じます。


正岡子規 言葉と生きる (岩波新書)正岡子規 言葉と生きる (岩波新書)
(2010/12/18)
坪内 稔典

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The ones that left us ~ inspired by Katy Perry ~


inspired by the song "The one that got away" by Katy Perry


(verse)
あの秋の日、伊豆の地で、わたくしたちは花に出会った。
その美しい子は天真爛漫にわたくしたちを迎えてくれ、
その笑顔は忘れ難きものとなった。
大いなる神の意志による<運命>を感じた。
わたくしたちは、ごく自然な流れでその美しい子を
我が家の「大切な家族」として迎えいれた。

(verse 2)
あの秋の日、信州の地で、わたくしたちはそらに会った。
その美しい子は元気いっぱいにわたくしたちを迎えてくれ、
その笑顔はかけがえのない宝となった。
人の繋がりがもたらす<運命>を感じた。
わたくしたちは、ごく自然な流れでその純心な子を
我が家の「大切な家族」として迎えいれた。

(chorus)
また生まれ変わっても
次の人生でも
花とそらはわたくしたちの大切な子供だ

ずっと一緒にいよう
あの日の約束をその時こそ成就しよう

そうすれば、
「あなたたちは去ってしまった」
と、二度と言わなくてよくなるのだから。。 








いつも読んでくださっている皆様、有難う御座います。


若干痕跡があるとはいえ、本歌とは全く別物になってしまいました……






Teenage Dream: the Complete ConfectionTeenage Dream: the Complete Confection
(2012/03/26)
Katy Perry

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オフィーリア、雀の娘たちと食事を共にする


雀の世界にもいろいろなドラマがある。
彼らもまた、
人間と同じように悩み、喜び、毎日を懸命に生きているのだ。

今回のお話には、例の雀三娘が再登場する。





オフィーリア、雀の娘たちと食事を共にする

ある冬の朝、
空は真っ青に晴れて風の強い朝のことである。
三羽の雀の娘たちが、
いつもの餌場で朝餉を食している。

少々お転婆な食べ方をしているのは、
一丈青扈三娘だ。
細見に締まって顔立ちも凛々しく、
その外見に違わぬ武術の達人、
いや、達雀であるこの娘には、
(意味はよくわからないが)
「一丈青」という立派なあだ名がついている。
実は、豪族の令嬢である。

ロシアからの転生雀と噂される那須妙子は、
明るい娘らしく溌剌と食事を楽しんでいる。
彼女の若い瞳は、
これから始まる今日一日に
夢と希望と楽しい何かだけを期待している。
若い娘が夢見がちで常に明るく前向きなのは、
雀も変わりはしないのだ。

食事の動作一つひとつにまで
作法の折り目がきっちりついている
上品な雀は、小弓という年長の娘雀だ。
ゆったりとしたその嘴運びは都の作法を思わせる。
扈三娘と妙子がおしゃべりしているのを
優しく見守る姉の優しさを持つ。

三羽は、餌場に盛られた玄米を
それぞれの器に移して食している。
雀の娘が使うお茶椀は、
銀杏の殻を加工して着色した
可愛らしいものだ。
扈三娘の器には
持ち主の趣味が一目でわかる
勇ましい刀剣が描かれている。
妙子の持つ器にはマトリョーシカ風の模様があり、
小弓の使う器は風雅な京風の高級品だ。

さて今、
この餌場に一羽の変わった鳥が近づいてくる。
明らかに雀ではないこの鳥は、
遠くから三羽をしばらく見ていたが、
ちょんちょんと跳ねて
少しずつ近づいてくる。

「貴方も召し上がるの?」
最初に気付いた扈三娘が尋ねると、
その鳥は黙って頷くような素振りを見せた。
鳥は、黒い硬そうな器を下げている。

「まぁ、変わった器ね。 ちょっと拝見。」
鳥の持っていた野暮な外見の器を
扈三娘が何の遠慮の素振りもなく取り上げた。

「あら、まるでこれは黒いわ。」
「それに何だか不格好ですわ。」
それは、栗を加工したものであったが
何の装飾もなされていない素っ気ない器であった。

「貴方たち! 失礼でしょう! お返ししなさい!」
小弓が扈三娘と妙子を叱りつける。
二羽は、バツの悪そうに器を返した。

「御免なさいね、どうかお許し下さいましね。」
小弓が鳥に頭を下げた。
「まったくこの子たちは、礼儀も作法もなっていなくて、云々、云々……。」
小弓がしどろもどろに
謝っているが、然し、その変わった姿の鳥は何も言わない。
小首を傾げているだけである。
どうやら言葉が通じていない。

扈三娘が一歩前に出て、
自分を差しながら言った。
「私は扈三娘。 おわかりかしら? こ、さ、ん、じょ、う。」
妙子がそれに続く。
「私は那須妙子。 た、え、こ。 た、え、こ。」
小弓がゆっくりと笑って
「小弓。 こ、ゆ、み。」
と二羽に従った。

異国風の鳥は、長い羽で自分を差して
透き通るような美しい声で言った。
「オフィーリア。」



四羽の若い鳥たちは、
卓を並べて食事を共にしている。
言葉は通じないけども、
目と目で会話が出来て、歌で気持ちが通い合うのだ。
楽しい朝食となった。
扈三娘と妙子は、
オフィーリアの器を侮辱したことを
強く後悔していた。

今日も、若い鳥たちの一日が始まる。





23DEC14 SUZUME 036 OPHELIA







いつも読んで下さっている皆様、有難う御座います。



山椒大夫・高瀬舟 (新潮文庫)山椒大夫・高瀬舟 (新潮文庫)
(2006/06)
森 鴎外

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