小十郎と喜多、君主の仇討を果たす (中編)


雀の世界にもいろいろなドラマがある。
彼らもまた、
人間と同じように悩み、喜び、毎日を懸命に生きているのだ。





小十郎と喜多、君主の仇討を果たす (中編)

『報復は、最も屈辱的な方法を以て成し遂げなければならない。』

小十郎は、竹に舞う伊達雀の紋章に誓った。
一羽の雀として、
この誓いは命に代えても成し遂げる心持だ。
であるが、重臣・左月斎鬼庭良直に対し、
どうすれば最も屈辱的な方法を遂行 execute しえるのか。
小十郎は悩んだ。
悩んで、姉に支援を要請することにした。
姉は知恵者で知られている。

片倉小十郎には頼りになる姉がいた。
その名を喜多という。
たいへんな才女で、その智はかの諸葛亮にも匹敵すると
言われたとか言われないとかであるが、
とにかく尋常なく頭の回る、聡明な少女雀であった。

喜多は謀った。
その神算鬼謀は、やはり諸葛亮を思わせるほどであった。
離間の計、贋書の計、
美女連環などという、えげつない計までも用い、
ついに暗渡陳倉の計を成功させて、
左月斎の寝所に侵入することに成功した。

「左月斎にとって最も屈辱的な悪戯を成功させる。」
今や、その計画を実行に移す時が来た。 
失敗は許されない。……

さてその計画であるが、
これもまた喜多が発案したものである。
内容は簡単明瞭だ。
同じ悪戯を再度施し、全く同じ辱めを与え、
その粗忽っぷりを笑ってやろうというものだ。

<左月斎の枕に思いっきりの爆竹を仕掛ける>

何ともはや、はた迷惑な話である。





(後編に続く)










いつも読んでくださっている皆様、有難う御座います。


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小十郎と喜多、君主の仇討を果たす (前篇)


雀の世界にもいろいろなドラマがある。
彼らもまた、
人間と同じように悩み、喜び、毎日を懸命に生きているのだ。

さて今回は、弥助雀が話してくれた
ある姉弟雀のこんな武勇伝を紹介してみよう。






小十郎と喜多、君主の仇討を果たす (前篇)

遠い北のある土地に、梵天丸という立派な雀の若殿がいた。
梵天丸はまだ年少だが、
幼い頃から、師・虎哉宗乙に教え込まれた学問によって、
その人格、もとい、鳥格は見事に研鑽されていた。
ちなみにこの梵天丸の家の家紋は
有名な「竹に雀」であったことから、
由緒正しき武家であることが計り知れる。

さてその梵天丸である。
立派な君主といっても、まだ元服前の子供である。
イタズラ盛りなのである。
ある日、梵天丸は、常軌を逸したきわどい悪戯を思いついた。
傅役である左月斎鬼庭良直の枕に爆竹を仕掛けたのだ。
その驚く様を悪童仲間で見物し、
笑ってやろうという算段だ。

幸か不幸かこの計は見事に成功し、
梵天丸は村の悪童たちと
左月斎が驚き、仰天し、取り乱す様を存分に観察することが出来た。
普段は大いなる威厳をもって梵天丸に接する左月斎が、
目も当てられるほどに恐慌をきたし、
羽を掻き乱しつつ金盥を打ち鳴らして
屋外に飛び出してきたのだ。 これは痛快であった。

併し、納得いかないのは左月斎である。
不条理にこれほどの恥をかかされ、
武士雀として黙ってはおれぬ。
左月斎は、今後のことも考え、教育的指導を梵天丸に施した。
即ち、棒叩きによる折檻である。
梵天丸の尻は、この季節の紅葉の如く真っ赤に腫れた。

さてこの事態を聞き、密に心を燃やす忠臣がいた。
梵天丸と同年代である、側近の小十郎だ。
小十郎は、形の上では臣下であるが
梵天丸の親友的存在でもある。
如何に左月斎といえど、
(筋道の通った措置ではあるが)梵天丸への棒叩きは、
小十郎にとっては許しがたい。
幼い小十郎には、この辺りの道理は理解できぬ。
感情にまかせ、左月斎にとっては迷惑千万、心外極まりない
ある決意をした。

「報復せねばならない。 しかも、最も屈辱的な方法を以て!」


(中編に続く)







いつも読んでくださっている皆様、有難う御座います。

平蔵、出征する


雀の世界にもいろいろなドラマがある。
彼らもまた、
人間と同じように悩み、喜び、毎日を懸命に生きているのだ。

今回は、ここより遥か南西にある大きな火山の大地の
そのまた南の地方での出来事、
まだ少年の面影を残した
平蔵という若雀の物語を紹介してみる。

これもまた、我が家に飛来する弥助という若雀より聞いた、
極めて貴重な物語である。






平蔵、出征する

自然界は決して太平ではない。
鳥たちの生活も又、同じだ。
餌場の縄張り争いから
戦になることは珍しくなく、
現に、その時もある南の地方で大規模な戦が起こっていた。
ヒヨドリとムクドリの連合によって、
雀たちの大事な餌場の支配が危機に瀕していたのだ。
自然界は決して太平ではない。

平蔵という少年雀は、
身なりも小さく、いかにもみすぼらしい。
まるまると健康的な雀たちの中にあって、
物心ついた時から天涯孤独の身であるこの若雀は、
一羽だけ、悲しいほどに痩せて貧弱だ。
そんな平蔵にとって、この雀の国の危機は
ある意味での好機であった。

平蔵雀は、
子雀の頃から馬鹿にされて育ってきた。
たった一人で世界を相手に戦ってきた。
悔しい思いと暗い孤独だけが彼の友達だった。
踏みつけられる冷たい泥濘の中で、
平蔵はいつか世間を見返してやろう、
自分という存在を認めさせてやろうと、
そんな思いに心を燃やしていた。
この戦は好機である。
なんの後ろ盾もないこの貧しい少年雀にとって、
身を立てるには身体を張るしか手段はないのだ。
平蔵は、防人となるべく兵士に志願した。

「平蔵なんか、戦えるわけないがな。」
「足手まといになるのがオチじゃがな。」

自分を蔑む周囲の声に
平蔵はじっとクチバシの端を噛む。
そんななか、冷静な兵役検査官は非常の決定を下す。
「丙種。 兵役、不適格。」

平蔵は戦えない。
その弱弱しい身体では、戦わせてもらえないのだ。
併しなんとかして、自分も戦に行きたい。
立派に戦うことによって、周囲を見返したいのだ!

平蔵は両親を失って、ずっとひとりだった。
十分な栄養のとれないその身体は、
小さく細く育ってしまい、最早立派な体躯は望めない。
馬鹿にされ、虐められてきたが、
今こそ周囲を見返す時なのだ。
自分という雀を立派に確立する時なのだ。
<大空に羽ばたく好機は今しかない>
諦める事は出来ない。

平蔵の村から、出征の一団が戦地へと旅立ってゆく。
入隊の許可がないままであったが
必死の平蔵は少し離れてその後を追う。

「平蔵、本当に行くんかいな!?」
「やめといたほうがええ、平蔵、死んでしまうがな!」

大きな山のひと塊のような頼もしい雀の兵士一団は
北へ向かって軽快に飛行し戦地へと真っ直ぐに向かう。
その後をパタパタと弱弱しい羽ばたきの
芥子粒のような平蔵が追う。
その姿は、風に煽られて安定せず、
高度も不十分で如何にも頼りない。




それが平蔵の最期の姿であった。
平蔵は帰ってこなかった。
彼がどうなったのかは、誰に聞いてもわからなかった。












いつも読んでくださっている皆様、有難う御座います。

田原坂―小説集・西南戦争 (文春文庫)田原坂―小説集・西南戦争 (文春文庫)
(2011/10/07)
海音寺 潮五郎

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釜無川の休日


雀の世界にもいろいろなドラマがある。
彼らもまた、
人間と同じように悩み、喜び、毎日を懸命に生きているのだ。

今回は、弥助雀がこんな話を聞かせてくれた。
ある夏の夜の、小さな恋の物語である。




釜無川の休日

初夏の夕刻、釜無川の川沿いに、
鳥たちが群れ飛んでいる。
雀、メジロ、ヒヨドリ、ムクドリ、いろんな鳥が仲良く飛んでいる。

どの鳥も、竹を箱型に組んだものに紙を張った
四角い提燈(ちょうちん)を下げ、
見事な隊列を組んで飛行している。
今夜は夏節祭、提燈行列だ。
パタパタと飛ぶ鳥たちの持つ提燈は
羽ばたきの度に小刻みに揺れ、
その光はまるで、
せわしく点滅する小さな星の群れの如く
幻想的に美しい。

さて、この鳥たちの中に、一羽の娘雀がいる。
名を大鳥居・杏・経府潘庵という。
杏は、大鳥居家の竜吉公主という身分で
大事な姫である為、
普段は王宮から外へ出る事は出来ない。
今日は特別に許され、
地元の子供たちに混ざって遊んでいるのだ。

そんな杏と仲良くなった一羽の少年雀がある。
丈という名のこの子雀は、
杏が竜吉公主であるなどとは夢にも思わない。
が、何か自分たちとは絶対的に違った雰囲気を
杏の中に感じている。
それもあって少年はこの少女を、
異世界から来たお姫様ではないか、ト本気で疑っている。
仄かな提燈の灯りは、
杏の持つ気品を一層際立たせる。

飛び疲れた二羽はやがて、
行列を外れて、釜無川の堤沿いに生えた桜の木に降りた。
上空では、月が静かに若い二羽を見守っている。

「お腹すいてない?」
丈は持っていた、玄米を差し出した。
二羽は黙って、この玄米を食べながら、
まだまだずっと続く提燈の行列を眺めている。
なんだかくすぐったいような気分だ。
丈は落ち着きなく羽をクチバシで整えたりしているが、
どうして自分がそんなに浮足立っているのか
子供の彼にはまだわからない。


この時、脚の爪にかけた二羽の提燈が、
風に吹かれて、<くるり>ト回転した。


この夏節祭を飾りたてる四角な提燈は、
古風模様風に切り抜かれ
花模様に切り抜かれているばかりでなく、
例えば「惇吉」「茶子」とか持っている者の名を
必ず一面に切り抜いておくという極まりがある。

提燈が揺れ、回転した時である。
あぁ、何という神の微笑ましい悪戯であろうか、
一瞬それぞれの名が切り抜かれた面が
お互いの方を全く同時に向いた、即ち、
丈の白い胸に「杏」という名が映しだされ、
杏の美しい羽毛には「丈」という名が映しだされたのだ。

一瞬、時は止まった。
転瞬、すぐにまた動き出した。

提燈は自然に回転を続け、
名前を映し出す光は二羽の身体から
あっと言う間に逸れてしまった。
提燈は逆方向に回転し、また、くるりと回転したりしているが、
二羽の名前が同時にお互いの身体に映し出されるような
奇跡とも言える偶然はもう二度とは起こらない。

この驚くべき一瞬の美しい光景に、
一体誰が気付いたであろうか。
当人である若い二羽も、周囲の子供鳥たちも、
祭見物に来ていた鳥たちも、実は誰一羽として気がつきはしなかった。
併し、「その一瞬」は確かに在って、厳然と二人の身に存在したのだ。




祭が終われば、杏は王宮へ帰ってゆく。
そうしてすぐに大人になる。
もう二度とこの二羽は、
こうして一緒に祭りを楽しむ事はないだろう。
幼いからこそ許された、
後にして思えば蜃気楼のように揺らめく、
幻のひと時だったのだ。

将来きっと、丈は杏が誰であったかに気付くだろう。
そうしてこの夜の甘酸っぱい思い出に
胸を苦しくすることだろう。
私はその時、丈があの奇跡の一瞬を、
あの神の微笑ましい気まぐれを
思い出すすべを持たないことを
心の底から残念に思う事だろう。







読んで下さっている皆様、いつも有難う御座います。





今回はいろいろ混ざってます・・・


掌の小説 (新潮文庫)掌の小説 (新潮文庫)
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雀の娘たち、願掛けの旅に飛び立つ


雀の世界にもいろいろなドラマがある。
彼らもまた、
人間と同じように悩み、喜び、毎日を懸命に生きているのだ。

今回は、我が家に飛来する弥助雀から聞いた
こんなお話を紹介する。


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雀の娘たち、願掛けの旅に飛び立つ

一丈青扈三娘は勝気でお転婆な娘雀だ。
凛々しいその姿に相応しい
非常に高い武術の技量を持つ。
その武は男子雀にも決して引けをとらなく、
凛とした氷のような美貌が
彼女の魅力をより一層高めている。
一丈青というのは、
勇壮な彼女に敬意を以てつけられた綽名である。

那須妙子は、上品な外見をもった
美しい少女雀だ。
その為、この雀の周りには常に男子雀が群がっているが、
それら取り巻きは、いつも扈三娘に追っ払われている。
扈三娘とは姉妹のように仲良しで、
おっとりタイプの妙子にとって
扈三娘の存在は頼もしい。
ロシア雀の生まれ変わりという噂も。

小弓は、この仲良しグループの中では最も年長の
落ち着いた雰囲気のご婦人雀だ。
扈三娘と那須妙子をいつも優しく見守る
優しい姉のような雀だが、
怒らせると悪鬼の如く恐ろしい存在となる。
着物の着付けのように丁寧な性格をしており、
振袖のように揃えた羽が
たいへんに美しい典雅な雀である。
和風美鳥という言葉が相応しい。

さてこの三羽であるが、
ある時、願掛けの儀式を行うことになった。
言いだしっぺは扈三娘である。
男勝りとはいえ、その心根は乙女であるのかと思いきや、
その願いは「武の頂を極めたい」という乱暴なもので
これにはいささか落胆したが、
思えば実に彼女らしい。

那須妙子の願いは、「優しい男子雀に出会いたい」という、
極めて自然な女子の持つ微笑ましい願いであった。
優しいという一言だけで、何の具体的な影像も結ばぬ
甚だ漠然とした内容であるところが初々しい。
彼女はまだ、純粋な夢見る乙女なのだ。
扈三娘に、こういった女性的要素が皆無であることは明白だが、
それを口にするのは身の安全の為に憚れる。

小弓はというと、彼女には特に願い事などはなかった。
願掛けという行為はやや子供っぽく感じられたが、
二羽が無邪気にはしゃぐ姿を見ていると
一緒にその儀式を楽しみたくなった。
小弓にとって願掛けそのものは重要でなく、
仲良しの二羽と一緒に何かをすることが大事なのだ。
併し、名目上何か願い事を作らねばならぬ。
小弓は、来週行われる予定の、
京雀との合同お茶会の成功を願い事とした。

この三羽が、これから願掛けの儀式を行う。
無事に成し遂げた者の願い事は
必ず叶うとされているが、成功には幾多の困難が予想される。
ただで叶う願いなどないし、あっても有難味に欠けるというものだ、
この試練はまさに願ったりなのである。

さてその儀式の方法である。
これは必ず、晩秋の夕方に成し遂げられねばならない。
丹沢奥地にある弁照儀碓という深紅の大木から
まず坤の方角へ飛び、支利臼という蒼い若木を探す。
そこから乾の方角へ進み、武魯嬉音という薄黄色の木を経て……
といった具合に、全部で七つの天木を巡るのだ。
それぞれの木の天辺で、願い事を祈願し、
最期の妙見菩薩という不動木での祈願を以て、
この「橋づくし」と呼ばれる儀式は終了する。
「橋」は、言う間でもなく「願いを渡す橋」の意味である。

これだけなら、なんとかなりそうにも思えるが、
実は、儀式の間は、一言も声を発してはならないという極まりがあり、
これが破られた時点でその者は脱落となる。
脱落した者との目を合わせるなどのあらゆる接触は、
更にその者をも脱落させる。
試練は多く厳しいほうが、願い事の完成度をより高めるものだ。
願ったりである。

さて、この雀の娘たちは、
果たして儀式をやり通す事が出来るのか?




この話の顛末は、
おって弥助雀が教えてくれることになっているので
いずれ皆様にも報告出来ると思うが、
本日のところはここまである。
これからというところで話が中断するのは
非常に心苦しいが、どうか許していただきたい。

あの三羽のことなので
上手くはいくと思われるが、
さて。……








願掛けの旅に出立前の腹ごしらえ。。
手前から、一丈青扈三娘、那須妙子そして小弓雀の姿を見る。
願掛けの顛末については、またいつか……


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いつも読んでくださっている皆様、有難う御座います。




花ざかりの森・憂国―自選短編集 (新潮文庫)花ざかりの森・憂国―自選短編集 (新潮文庫)
(1968/09/17)
三島 由紀夫

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宝永にての物語


日本一の名山、富士。

一見完璧な調和ともみられる
そのなめらかな円錐の山体には、
実は南斜面に大きな噴火の痕跡があり、
1707年宝永年間に噴火したこの火口は
宝永火口と呼ばれている。
美しいうなじのような傾斜につけられた
大きなこの傷痕は
何とも痛々しくはあるものの、
地下深淵に押さえつけられている
巨大なエネルギーの存在を連想させ、
学術的浪漫を大いに感じさせるものであるが、
同時に、強い神秘的畏怖も感ずる。

学問の視点からでなく、
心と魂と生命の目を通して「感じる」その姿。
人というちっぽけな存在を制圧するのに、
何の手間も伴わないその圧倒的すぎるパワーからは、
(象が蟻を踏み潰しても気付きもしない、といった)
現実的な存在を超越した形而上的な「何か」を
連想せずにはいられないのである。



先日のこと、私はその宝永火口/宝永山を歩いてきた。
火山学的に多くの興味深いスポットを有するこのエリアは
フィールドスタディにもってこいの場所だ。
スコリアに覆われた急坂は私の心身を疲労困憊させたが、
素晴らしき浪漫の山は私の知的好奇心を充分以上に満足させた。

快心の心持で歩く帰路でのこと、
私は突如、灌木の隙間からこちらに向けられる視線に気付いた。
疲労でぼんやりとしていた意識に、
静かに落ちたひとつの水滴のようなその視線は、
瞬時に私を覚醒させた。

おぉ、なんだろう、
この優しい視線は何処かで感じたものではなかったろうか。……

視線の主を求めたその先、
黒い地面と乾いた潅木、冷たい強風が吹く荒涼とした大地のそこには、
半透明な鹿のかたちをしたものが、すっと立ってこちらを見つめていた。

その姿を認めた時、
私の意識はたちまちのうちに澄みきった。
霧が晴れるように清らかに晴れわたった。
そうして私は、
ひとつの確信を持ちつつも、尚、戸惑いながら、
胸に湧き上って来る思いを必死に抑えつつこう呟いたのだ。

花じゃないのか……?


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忘れがたいその瞳。

そのつかのまの、真砂のようにつかのまの、
そのじっとこちらをみつめている眼差の意味を、
本当に知ったのはわたくしだけのような気がするのだ。
花よ、そうではないだろうか。
それをおまえが信じてくれるということが
すでにわたくしにはひとつの信仰のようになってしまっている。


そうしてわたくしは愛する花の眼差に
感謝の想いを込めてそっと手を合わせた。
ありがとう、会いに来てくれたんだね。……

喪われた我が愛する子は、
その時、確かに鹿の身体をかりて
私に会いに来てくれた。


山には人知を超えた叡智の存在が宿っており、
神秘の住むその地では、
この世界とあの世界との垣根が極端に低くなるのだという。
ずうっと言い伝えられてきたこの伝説を
私はその時、明確に理解し実際に体験した。

しばし、視線を以て懐かしく会話を交わしたあと、
鹿のかたちを借りた我が愛する子は、
ゆっくりと歩いて去っていった。

その後ろ姿は、辺りを覆う霧に溶け込むように薄くなってゆき、
やがて、完全に消えた。
後には、幸福に胸がいっぱいになったこの私の姿だけが残った。







人が山岳信仰に至ったのは実に自然な成り行きであり
そこには何の疑問も生じない。

私にとっての「山」とは、
地球科学的現象によって生じた一つの結果であると同時に、
科学とはまた違う世界に確実に存在する精神の拠所、
生命が生まれ帰る場所、現世とは違う次元で存在する神秘が支配する地、
一言で言えば、「神の存在」そのものなのである。

それを前提としてあえて言おう。
今回の物語もまた、決して嘘や作り話とは言い切れないものである、と。
魂は確かに存在するものであり、
時として人は、そのことを事実として実感出来る機会に、
行き当たる幸運に恵まれるのだ。

追記:
この時、そらも花と一緒に来てくれていたのだそうです。
たまたまその場に鹿さんが一頭しかいなかっただけのことで、
そらくんもまた、花と一緒にいてくれたのだと、
あとから教えていただきました。
















そこは、ふたつの世界が交差する場所……

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いつも読んでくださっている皆様、有難う御座います。

岬にての物語 (新潮文庫 (み-3-26))岬にての物語 (新潮文庫 (み-3-26))
(2005/12)
三島 由紀夫

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そらと修羅 (NOV14)


こちらも以前掲載したものです。
敬愛する賢さんの「春と修羅」を
そら君に語ってもらっています。
この冒頭の部分にはいろいろな解釈があるそうですが、
私は、賢さんが、社会の中の個、周囲に生かされている自分、
そういったものへ対する感謝を語っているのではないか、
ト自分流に解釈しています。
(詳しくは、多くの博学の士が解説されていますのでそちらを参照下さい)

(以下、本文。 2013年冬に掲載したものです。)








~ 花そらで読む文学 ~




春と修羅ならぬ そらと修羅















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F13OCT10 026shura














G13OCT10 052shura

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コピー (2) ~ J13OCT10 049shura












春と修羅 (愛蔵版詩集シリーズ)春と修羅 (愛蔵版詩集シリーズ)
(1999/09)
宮沢 賢治

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高村光太郎の言葉をかりること (NOV14)


以前掲載したものです。
このまま埋もれさせておくには惜しいと感じたものを
こうして再掲載することがあります。
この記事では、高村光太郎の言葉をかりて、
花とそらへの愛情を表現しています。

(以下、本文)





あなたたちのその姿は

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まことに神の造りしものだ。

B01APR13 067tk





時々内心驚くほどに

C09MAR13 024tk





あなたたちは美しい・・・!

D03MAY13 062tk







E08MAY13 081tk


F08MAY13 077tk











いつも読んでくださっている皆様、有難う御座います。

あなたが黙つて立つてゐると
まことに神の造りしものだ
時時内心おどろくほど
あなたはだんだんきれいになる


智恵子抄 (新潮文庫)智恵子抄 (新潮文庫)
(2003/11)
高村 光太郎

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秋晴れにこの階段をのぼること


自転車を飛ばしながら、
ふと目についたこの階段。。
そうだ、ここは花とそらと共に駆け足で上った階段だ。
私たちはあの時、本当の幸いのなかにあった。

28OCT14 OYAMA 004



今、一歩一歩、ゆっくりと踏みしめながら、
この階段をのぼる。

階段の向うには何があるのだろう?
登ったその先には何があるのだろう?

花とそらは、
きっとそんな想いにワクワクしていたに違いない。
その先にある公園、広場、心が躍るような場所を想像して
階段を駆け上がっていたのだ。

あの子たちの気持ちを考えていて
いま漸く気付いた。

そうか…… だからあの子たちは、
花とそらは階段が大好きだったのだ。

だからあの子たちは
階段を登る時はいつも楽し気で、
先を急ぐように駆け足で登っていたのだ……。

28OCT14 OYAMA 005

28OCT14 OYAMA 006

28OCT14 OYAMA 008




あの子たちが元気に階段を駆け上がる姿は、
今もこの目に焼きついている。

そうか、そうだったのか。

またひとつ、
あの子たちの気持ちがわかったこの秋の午後に……




(またすこしだけ、距離が縮まった気がした)














あの日々 Those days with HANA and SORA


あの日々 Those days with HANA and SORA


(verse)
私たちは走った
お散歩した
泳いだ
遊んだ
毎日が冒険だった、あの日々

私たちは歌った
抱きあった
見つめ合い
顔を見合わせて
たくさん笑いあった、あの日々

(bridge)
そうだ、あの日々はもう遠い
でも目を閉じてキミたちを想えば
いつでも気持ちは戻れるんだ

(chorus)
私たちは世界の頂点にいた
何も怖くはなかった
私は純粋な子供のままで、
キミたちもまたそうだった
自由でワイルドに生きた
ただ愛だけがあった
あの日々、あの過ぎ去りし日々……


(verse)
私たちは歩いた
太陽のもと
雨のなか
森を草原を巡る四季を
ずっと一緒に歩いた、あの日々

私たちは生きた
肩を寄せ合い
夢を語り
心の底から愛し合い
この先もずっと
ずっと一緒だと信じていた、あの日々

(bridge)
そうだ、あの日々はもう遠い
でも目を閉じてキミたちを想えば
いつでも気持ちは戻れるんだ

(chorus)
私たちは世界の頂点にいた
何も怖くはなかった
私は純粋な子供のままで、
キミたちもまたそうだった
自由でワイルドに生きた
ただ愛だけがあった
あの日々、あの過ぎ去りし日々……







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Avril Lavigne の「17」より、本歌取させていただきました。。
(といっても、一二箇所、しかも日本語での拝借ですが)
過ぎ去った過去を思う、曲全体に漂う切ないイメージを借り受けたのです。
今更ながら、彼女の表現者としての素晴らしき才能に驚きです……



Avril LavigneAvril Lavigne
(2013/11/05)
Avril Lavigne

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スーパースターは慌てない (NOV14)


さて、続いてもう一本、太宰治エピソードの紹介です。
こちらも前回と同じく、2013年に一度掲載したものです。

彼には、いろんなエピソードがありますが、
そこからわかるのは
彼が如何に必死に生きていたか、ということです。
不真面目でありながら、真面目だったんです。
中途半端にみえて、実は懸命だったのです。

今回のエピソードも、一見ふざけているようにみえますが、
実は真剣そのものです。
メロス的立場になって(そんなカッコいいものではありませんが)
借金のかたに人質となった友人の元へ
返済金を持って帰らなければならないのですが、
支援を期待できるのが決して裕福とはいえない井伏鱒二のみ。
その井伏鱒二(太宰にとっては大事な師匠)へ、無理なへ金銭的支援を申し込めず、
苦悩のうちに時間のみが過ぎ去ってゆくという苦境……

ま、これがもうまさに
絵に描いたような「身から出た錆び」なので
同情はしにくいのですが。。

なんというか、実に人間味溢れる人なんです。
だらしないけども、一生懸命な人、
そんなところが大好きです。

話がそれてしまいました。
では、以下、本編です。

「走れメロス」誕生秘話・・・!?








皆さま、「走れメロス」はご存知だと思います。

メロスの為に
命をかけて暴君の人質となったセリヌンティウスと、
処刑されるのを承知で
その元へもどったメロスの友情の物語・・・

今更説明するまでもありませんが、さて!

わたくしの知る限り、
現実世界にもメロスは二人いました。

一人は戦国メロスこと「鳥居強右衛門」、
そして
もう一人は・・・

そう!
メロスの原作者である太宰治なのです。


sora mumuSORA「太宰しゃん! やる時はやる男ッ!





ある時、太宰治は熱海で飲んだくれてました。

しばらく熱海に滞在していたのですが、
彼の健康状態を心配した妻が
檀一雄を送り込んできます。

さて、支援にきたハズの壇は
すっかり太宰に取り込まれてしまい、
二人で熱海の街を豪遊するのですが・・・

飲んで食って芸者をあげての大宴会を繰り返し、
とうとうお金を使い果たして
大借金を作ってしまうという事態に。。


gakuburusora06DEC09SEKIRO 216SORA「なんかピンチでしゅぅぅ・・・」

hana face1HANA「いつもの事だから心配なくね?」



「東京で金策してくる。君は此処で待っていたまえ。」

太宰はそう言い残し、
壇を人質として熱海に残したまま

メロスの如く颯爽と東京へと旅立ってゆきます。


コピー ~ 2009120917595096cSORA「ここからカッコイイ姿がッ! ワクワクドキドキ





さて


人質となった壇は
太宰の帰還を待って・・

待って、待って、待ちますが

太宰のメロスはいっこうに帰ってきません。




業を煮やし、
ついに壇は督促のために東京へ行って太宰を見つけるワケですが

なんと我らがスーパースターは・・


のん気に 井伏鱒二と将棋をさしていました。



sora scaredSORA「えっ!?」

hana happyHANA「ぷすっ! ぱぷす~www」




「どういうつもりだ!」 

檀は激怒しますが
太宰は動じることなくこう言い放ちます。



03MAY13 050DZ




hana happyHANA「開き直った! ぷっす~www

SORA uuu07JAN09 010SORA「・・・・・」





絶体絶命の窮地にあっても
この機転と悪びれなさ!


スーパースターの面目躍如ってトコですねぇ・・・



SORA uuu07JAN09 010SORA「はぅぅ・・・・・」










この「熱海事件」の後

名作「走れメロス」が誕生します。



















  ~ 理想 ~

走れメロス (新潮文庫)走れメロス (新潮文庫)
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太宰 治

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  ~ 現実 ~

小説 太宰治 (岩波現代文庫)小説 太宰治 (岩波現代文庫)
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檀 一雄

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いつも読んでくださっている皆様、有難う御座います(感謝) m(_ _)m

スーパースターは借金の逃れ方さえかっこいい (NOV14)


敬愛する太宰治の苦笑いエピソードを
以前よく掲載したものでした。
面白いものがあったので、再掲載してみます。

花そらと会話しながらのこの形式は
今では行うことは出来ません。
まこと、楽しき日々でした。
わたくしはあの日々を忘れません。

(以下、本文。 2013年初夏、初投稿。)









スーパースター太宰治があるバーで飲んだくれて
その帰りのことです。


hana happyHANA「でたwww」

gakuburusora06DEC09SEKIRO 216SORA「おしゃけ(酒)絡みでしゅか・・・ ドキドキ



一旦店を出たスーパースターでしたが、
すぐにもどってきてバーのマダムに一言。

「車代、貸して下さい。」



hana happyHANA「きったぁぁぁ! ぷす~www

SORA uuu07JAN09 010SORA「・・・・・・」




借金の申し込みなんて
実にカッコ悪い姿ですが、
<これほどの男>が
失態をさらしたままでいるハズがありません。

思いっきりキザなセリフで
その場を引き締めてみせます!



「いいですか、マダム・・・

03MAY13 050DZ

ということをお忘れなく。」



hana happyHANA「引き締まるのはマダムの表情じゃねwww」

コピー ~ 20091209180634afdSORA「踏み倒されそうな予感から、でしゅか・・・」





まぁ、つまり、
ここで借金を申し込んでいる情けない男は
「仮の太宰」であって

本当であれば余裕の姿で車中の人となっているのが
「本来の太宰」である、と

そう主張して
体面を保とうとしているようなのですが・・・
(真面目なのか本気なのか、
 よくわからないところが、またこの人らしい)







あれ? これ使えるんじゃね!? 今度やってみよっと♪



sora scaredSORA「わひゃっ!! うそっ!?

hana happyHANA「ぷっす~www 流石似た物同士ww















* ちなみに・・・

『借金をしたのは仮の太宰であるのだから
 本物の太宰に返済の責任はない』

ということらしいです。

他の人なら許されないところですが、
この人はもう仕方ないですね・・・






いつも読んでくださっている皆様、有難う御座います(感謝) m(_ _)m

読む本を置き、ふと遠くを眺める


「嵐の中にこそ平穏、嵐の中にこそ……。」

太宰治のある短編の中に、こんな言葉があった。
普通ならそのまま読み進むだろう。
併し私は、思わず読む手を止めて呟いてしまった。

「嵐の中にこそ平穏」




花とそらのいた日々は、
まさに嵐のようであったと言える。
私たちは、時間があれば常に走っていた、それは、

<全力で駆け抜けた日々>

私たちは、生きている喜びを体全体で感じていた。




立ち止まることのなかったあの日々。
あっと言う間もなく
閃光のように過ぎ去ったあの日々。

花を迎えた時、そらが家族となった時、
大変だけど幸せ倍増!
などと笑いあったあの遠い遠い日々。

あの日々にこそ、暖かな心の平穏があったのだ。




「嵐の中にこそ平穏」

この言葉を目にした時、
私はそれを咄嗟に、
花とそらがいた幸せのあの日々と
関連づけずにはいられなかった。







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