新九郎譚 「昼休み」


我らが新九郎君は若年の身でありながら
外国人と職場を共にし、
しかもなかなかの難しい立場にありますので
外から見ている私などは
大いに感心することがよくあるのですが、
そんな中で新九郎君がやっていけるのも
きっと素晴らしい仲間に恵まれているからに
違いありません。
さて、今日はそんなお話をしてみます。

ある時、新九郎君は
たいへんな人数の職員に対し
とあるテストを行うことになりました。
これは一人ひとり面談しながら行うもので、
手間もかかりますし
当然、気も使います。
2週間、きっちり缶詰になる見通しで、
こういった職務につきものの
その後にあるデータ入力まで考えると
ほとほと気が遠くなるような
膨大な作業量なわけです。
そしてこの割り当てが終わると、また、次の仕事。
人生はこの繰り返しです。

さて、テストとなりますが、
はじまってみるとこれが意外にも楽しく
歓談しながらの作業は順調に運び、
次々とリストは埋まってゆきます。
併し、外の廊下には
常に人が5~6人待機している状態で、
切れ目というか、小休止の暇もありません。
11時、12時、13時…
忙しくしているので時間は早く過ぎるのですが、
お昼の時間は刻々と背後に置き去られて
新九郎君の胃は空腹に
悶え苦しむ事となってしまいました。
しかも、人は後から後から
次々と押し寄せてくるばかりです。
新九郎君が腹をくくろうと、ぐっと歯を噛んだ
その時、

「お昼はとったのか?」
巨躯を折りたたむようにして
例の強面の上役が部屋に入ってきました。
「いいえ、まだですが人がたくさん待っていますので。」
精一杯に見栄をはって笑顔でこたえた新九郎君でしたが、
当然その上役には腹の底を見透かされることとなり、
うむ、と頷いたその上役、
お昼をとってこい、と一言云ったかと思うと、
「おまえたち、一時間後にもどってこい!」
と、廊下の人たちに大声をだしたのです。

「去れ!(Go away!)」
アクションが早いので
皆を追い散らしています。

これには、新九郎君、慌てたのなんの、
直ぐに席を立って皆を引き留めました。
「ちょっ、ちょ、ちょっと待って!!」

被験者の皆は、
非番の日に呼び出されて来ている事情です。
しかも、一人約15分強のテストですから
1時間以上も待っている人だっているわけです。
下っ端はほぼ物品扱いの特殊な職場とはいえ、
これではあんまりですので、
新九郎君は笑いをこらえながら
皆を呼び止め、
上役には感謝の気持ちを誠実に示しつつ、
何とか引き取ってもらい、
テストは続行することとなりました。
一瞬、真っ青になった皆の顔が安堵しています。

「必要なことがあったら直ぐに呼べ。」
ニヤっと笑い、颯爽と立ち去ってゆく上役の姿は
新九郎君には
いつもより一層大きく見えたそうですが、
他の人には恐怖の魔王にみえたことでしょう。

まぁ、なんであれ、
こうした人が在るおかげで、
今日も新九郎君は元気です。




いつも読んでくださっている皆様、有難う御座います。


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新九郎譚 「年末」


新九郎譚「年末」

日本で年末と云えば師走と名がつくほどに
忙しいものというのが常識ですが、
我らが新九郎君の職場はちょっと違っています。

新九郎君の部署は
彼以外は皆米人で、
彼らにとっての年末は所謂
<Holiday Season>
ということで…

せわしい日本人から見れば
狂気としか思えない、
ゆるやかなペースで毎日が進行するのだそうです。
それも、
11月終わりの感謝祭から1ケ月間も。

その日の朝も、
背中に炎をまとって励む新九郎君の横で、
米人たちはホットプレート3台と
トースターをフル稼働させて、
パンケーキやソーセージ、卵料理にマフィン、と、
ホリデーシーズン・ブレックファーストを
悠々と楽しんでいたそうです。

しかし、
新九郎君には年内に終わらせたい仕事が
それはもう山ほどもあり、
とてもそんなイベントを
楽しんでいる余裕などありません。
能天気な呼びかけをやんわりと断りつつ、
ただ仕事に集中するのみです。
新九郎君の耳には楽しい歓談は聞こえませんし、
美味しそうな料理の匂いも感じません。

さぁ、その目はいよいよ血走り、頬はこけ、
切羽詰まった典型的な
年末の日本人そのものといった勤労っぷりで
新九郎君はひたすらキーを叩いています。

ところがこんな時、
仕事というのは常に予定通りにはいきません。
しかも、焦れば焦るほど、
進捗は滞るばかりで
時間の割にほとんど進まない現実に
絶望したり、呆れたり、
時には妙におかしくなりながらも、
新九郎君が七転八倒、四苦八苦、
苦心惨憺、喘ぎ、もがきながら、
諦めよう、いやまだいける、なとど
自問自答の戦いを繰り返し、
涙と汗と血の成果を
延々とPCに刻み続けていたその時、

バチッ…!


劇的な音と共にブレーカーが落ち、
新九郎君のPCの画面は真っ黒に。

隣の会議室では、
米人たちが半焼けの料理を前にして
オー!ノー!などと頭を抱えていますが、
新九郎君は最早、もう何も云えずに一瞬放心し、
それから段々と無慈悲な現実を
認識しはじめて、
それでもとにかくブレーカーを戻そうと
あたふたと走り回りますが、
なんと問題はもっと深刻なことがわかり、
結局、修理を担当する部署に連絡して
支援を待つことになったのだそうです。

新九郎君によると、
もう笑うしかなくて大笑いしたとこことでしたが
その笑顔がどれだけ引きつっていたのか…

いやはや彼の人生は常にドラマチックです。




いつも読んでくださっている皆様、有難う御座います。

新九郎譚 「講義」


さて、我らが新九郎君、先日大変に
気まずい思いをしたそうで、
これが当事者でない私からみれば
中々に愉快な内容でしたので、
今日はそのお話をしましょう。

新九郎君はその役柄、
大勢に講義を行うことがあります。
先日のこと、他部署からの要請で
職場でのパワハラ防止に係る講義を行ったそうですが、
新九郎君は少々スパルタなところがあり
しかも自分の極端な努力主義を
他人にも押し付ける傾向にありますので(迷惑!)
その新九郎君がパワハラ防止の講義を行ったなどと、
無関係な私としては、ちょっぴりクスっとしてしまいます。

講義のほうは、矢張りと云うか、
いくら力を込めて鐘を打っても
なんの音もしないような、
終始白けた雰囲気だったそうです。

「大声で人を叱ってはいけません。」
「机を叩きながらの指導はパワハラです。」

こういったことを延々30分、
口角泡を飛ばし、額に青筋を立てて、
血走った目で語る新九郎君を想像すると
滑稽で頬が緩んでしまいます。

併し、講義を受ける側としては切実、且つ、
あなたが云うんですか?といった
口に出す訳にはいかない複雑な心境をかかえ、
それでも黙って聞いていなければいけないのですから、
これはもう懲罰に近い30分だったはずです。

講義の最中は当然、皆が白けきっているのですから、
途中、さすがの新九郎君も少々心細くなってきて
「皆さん、お前が云うな、といった表情ですね!あっはっは!」
などと冗談を飛ばしたりもしたそうですが、
まるっきりの無反応、
静寂が会議室を支配するのみだったそうです。

呆然と空を見つめる者、よそよそしく視線を逸らす者、
苦虫を噛み潰したような表情の者、と様々な面々を前にし、
静寂に耐えられなくなった新九郎君が、
「はい、皆さん、ここは笑うところですよ!」
と、パンパンパンパンなどと手を打ちながら
部屋のなかを歩き回り、
漸く数人かがクスリと笑ってくれた、といった程度なのですから、
これは辛かったことでしょう。
照れ笑いというか、苦笑いというか、
自嘲気味に語る新九郎君は
可愛ゆくも見えました。

(いきすぎた)熱血の新九郎君も、
これで少しは変わるのでしょうか?

まぁ、変わらないでしょう。
「坊ちゃん」がそのまま現出したような人ですから。

(そこがまたいいのですが)






いつも読んでくださっている皆様、有難う御座います。

新九郎譚 「柿」


さて先だってのこと。

我らが新九郎君が
米人と車に乗っていたところ、
立派な柿の木が
それはもう鈴なりに実をつけていて、
その見事な様は
ちょっと拝借、などと失敬してもわかるまい、
と、けしからん考えさえ浮かぶほどだったそうで、
深まる秋の風情などどこふく風で、
柿の甘味を想像して
うっとりと
新九郎君が頬を緩ませていたその時、
米人にこんな質問をされたのだそうです。
「シンクロウ、あれはトマトか?」

うん、なるほどね。
新九郎君はそれだけ思ったそうです。



いつも読んでくださっている皆様、有難う御座います。

現実を補完する


前回からの続きです)

はたして
あのペンダントにはどんな背景があったのか?
何にもないでは、
あんなに張り切っていた新九郎君が報われませんので、
ここはひとつ、何か考えてみましょう。



男女の名前や日付が刻印されているのですから
ただ事ではありません。
その日付はきっと大事な記念日でしょう。
結婚かも知れないし、出会いの日かも知れない。
いずれにせよ、形にしなければならない程の
重大な出来事があったはずなのです。
それが放置され、回収もされないとなると、
そこに何かの意味があるのかも知れない。
もしかしたら、背景には、
悲しい別れなどがあったのかも知れないのです。

仮にですが、
二人はこの地で出会い、そして結ばれた、としましょう。
併し、その直後に戦争が起こったとします。

sora scaredそら「初っ端から妄想爆発ゥゥッ!」


やがて男は
遥かロシアの地へ出征することとなり…

hana hatena花「いきなり訳がわからんのじゃが?」


仮にです、仮に。

で、
数年して戦争は終わり、女は男の帰りを待ちました。
ずっとずっと、待ち続けました。
併し遂に、男が帰ってくる事はなく
女は意を決して
軍当局へ、男の消息を尋ねに行きました。

sora mumuそら「はぅぅ・・・!」


女を待っていたのは非常な記録でした。
男の戦死を告げられ、女は絶望の涙を流しますが、
涙を拭いたその両目は強い決意に満ちていました。
「こんな事があるハズがない!
私にはわかる、彼は生きている!
私は彼を探しにゆく…!」


hana ordinary花「なんかどっかで聞いた話じゃがなwww」


男の生存を信じ、必ず再会するんだという女の執念は、
遂に男を探しだします。
ずっと想っていた、ずっと求めていた、
男の生存だけを信じて、ただそれだけを心の支えにして、
今までこうして生きてきたジョバンナの苦労、
それが遂に報われる、かと思われました。

hana ordinary花「ジョバンナって云っちゃってるしwww」

12JAN09 218そら「ソフィ・・・ ジョバンナしゃん!!


遥か、遠いロシアの地でジョバンナが見た現実は…

戦争を生き延びた男(仮にアントニオとしましょう)が、
現地の女性、そして子供と、倖せに暮らしている姿でした。

26MAY10S.jpgそら「なんでしゅってぇっ!?」

05FEB09 039 SORA iyadeshuそら「ジョバンナしゃぁぁんっ!!」


アントニオは生きていた。
でも、もう二人の道が永遠に交わる事はない。
帰りの列車の中、
絶望に身も心も疲れ果てたジョバンナ。
光を亡くしたその瞳に映ったのは、
車窓の外に、何処までも、何処までも広がる、
ひまわりの花畑だったのです。。

hana ordinary花「ちょっと、これwww」



こういった話が(仮に)あったとして、
更に、ジョバンナとアントニオが出会ったのが、
新九郎君が落とし物係を務めた例のイベントだったとしましょう。

悲しい現実をつきつけられたジョバンナが
どういった行動をとるか?

もうおわかりでしょう。

二人の出会いの場所へ、
凡てを返しに来たのですよ。
ペンダントをこの地へ捨てる事で、
過去との決着をつけたのです。

それが、ジョバンナが未来へ向けて歩きだす
小さな一歩になればいい、と、
そう考えながら、何故か私が涙ぐんだりしていて
我ながらこの妄想の才には恐れ入ります。

hana ordinary花「それ、ソフィア・ローレンの「ひまわり」じゃがなwww」

sora mumuそら「ジョバンナしゃんでしゅ!」


まぁ、いろいろな説があるとは思いますが、
これがこの件の真実… かも知れませんね。


sora face1そら「知れないでしゅね…。」

hana uhe花「なんか痛い人らがおりよる…。」











いつも読んでくださっている皆様、有難う御座います。

新九郎譚 「続・落し物」


今回は久しぶりに、
我らが新九郎君のお話をしましょう。

新九郎君は事情があって
様々な公共のイベントに関わる事があるのですが、
昨年、落とし物係を経験しました。

ゴミに見間違えるほどの猫の写真が
届けられた時、
受理作業の手間を思って
心の中で舌打ちした新九郎君でしたが、
その写真を探しに現れた老人が
写真を見るなり抱きしめて泣き崩れた姿を見るに際し、
新九郎君は己の浅慮を大いに恥じる事となりました。
人生到る所に学びの機会アリ、です。

昨年そのような経験をしていますので、
今年の新九郎君は一つ成長しています。
どんな品にも人の想いがこもっている事を知っています。
それを強く意識しての勤務となりました。

今年は予想以上の数の物品が届けられたそうです。
拾得物というのは法律で厳しく管理されますので、
その手続きは大変ですが、
今年の新九郎君は一味違いますので、
元の持ち主にお返ししなければならない、という
使命に燃えて、それはそれは丁寧に扱いを行ったそうです。
(本来、そうあらねばならないのですが)

さて…
この場で詳しい内容を語る事は出来ませんが、
特別にあるアイテムについてお話しましょう。
それは、男女の名前が刻印された
ペンダントでした。

結婚を記念するものでしょう。
二人で共有する一つの思い出、
どちらが欠けてもならぬ、
否、二人でなければ成立することすらない、
厳粛な誓約の儀式。
その精神的な結束を
形にして身に付けていたい、という
二人の純粋な想いが
伝わってくるような、
可愛らしいペンダントが届けらたのです。

(これは絶対にお返ししなければならない!)
新九郎君は心の中でそう叫び、
その身は自ずから引き締まりました。

心配そうに問い合わせにくるカップル、
ペンダントを見た瞬間に
弾けるような笑顔になる二人、
嬉しそうに去ってゆく後ろ姿…
そんな場面を想像し、
大事なアイテムの返却という
一大イベントに関われる事を、
新九郎君は強く誇りに感じて、
これから起こるロマンチックなドラマに、
一人、胸を熱くしていました。
返却時の台詞まで考えていた、というのですから、
どれ程に新九郎君が入れ込んでいたのかが
わかります。



さて、夜になり、イベントは終了し、
来場客は皆、帰っていきました。
結局、誰もペンダントを取りには来なかったそうです。

まぁ、現実というのは常に散文的なものですね。






いつも読んでくださっている皆様、有難う御座います。

新九郎狐


丹沢の山奥に一頭の狐が住んでいた。
狐は名を新九郎といった。
新九郎は天蓋孤独の身であったけども、
ある春の朝、家族ができた。
彼の巣穴の近くに
純白に輝く兄妹の花が咲いたのだ。
それは、雪をも欺く白さだった。

新九郎は花たちを愛した。
それはそれは大事に世話した。
うっとりと眺めているうちに春は過ぎた。
梅雨には花たちが流されないように、
煉瓦で囲って土を盛った。
夏は灼熱の日差しよけに
傘をこしらえた。
秋には降り始めた霜を避ける為、
新九郎は花たちの根本に丸くなって眠った。
やがて丹沢に冬がきた。

この世界は一つの法則に支配されている。
新九郎がもうどんなに頑張ったところで、
花たちはその可憐な花弁を散らしていくしかなかった。…
新九郎は、コーンと一声だけ鳴き、
その声は丹沢の山々に美しく響いた。




「それから新九郎はどうなりましたの?」
人間の女の子が父親に聞いた。
「滅んだよ、無論。」
父親は遠くを見るような目でこたえた。
「新九郎は現実を受け入れる事を拒んだんだ。」

「お可哀想なことをしました。」
女の子は目を伏せてしまったが、父親は云った。
「然し彼は、愛する花たちと幸福に生きる事が出来たのだ。
哀れに思うことはないさ。」
「彼は自分の倖せを追及したんだ。」

女の子にはよくわからなかったが、
新九郎と花たちの魂は
きっと今でも丹沢にあるのだろうと、
それだけは間違いのないように思えた。







いつも読んでくださっている皆様、有難う御座います。

新九郎譚 「スーパーヒーローを問う」


さて、今回は又、我らが新九郎君から聞いた
馬鹿々々しくも微笑ましいお話をいたしましょう。
新九郎君の職場はほとんどが米人でありますので、
本邦の日常では決して聞かれないような
奇妙な会話が日常的に交わされるそうです。
正に、日常の中の非日常。
屹度お楽しみいただけるかと思います。




「スーパーヒーローを問う」

以下、新九郎君の職場で交わされた
あるアメリカ人達の青筋立てた議論です。
登場人物は、
BOSS(職場の長)
部下A
部下B
部下C
女性部下

ト、なります。
皆、アメリカ人で、立派な大人たちです。


BOSS 
「スパーマンこそが真のスーパーヒーローだ。
これはアメリカ国民であれば当然の常識として認識している事実だ。」

部下A
「バットマンは勝つための工夫をしますが、
スーパーマンはただ力押しで勝つだけです。
面白味がありません。」

BOSS
「面白い必要があるのかね?
彼はやるべき事をやっているだけで、
キミを楽しませる必要はないのだ。
彼の任務はエンターテイメントではないのだよ?」

部下A
「いや、そのエンターテイメントこそ、彼が生み出された理由でしょう?」

BOSS
「よく聞きたまえ。
スーパーマンは其の名が示す通り「スーパー」ヒーローなのだ。
一方、バットマンは単なるヒーローだ。そこに大きな差がある。
更に云うならば、スーパーマンは現実的だが
バットマンはてんで空想漫画の主人公ではないか。
スーパーヒーローとは呼べないな。
せいぜいSFヒーローだ。」

部下A
「スーパーマンは異星人なのだから、名前を変えるべきです。
スーパーエイリアンとすべきでしょう。」

BOSS
「彼はスーパーヒューマンなのだからスーパーマンで問題ない。
論点のすり替えはやめたまえ。
私たちは、活動の内容を議論しているのだ。」

部下A
「いや、彼はヒューマンではありません、エイリアンです!
これは事実ですよ!」

BOSS
「スーパーマンが地球生まれでないから人間でないと云うわけか。。
では、キミは、
アメリカ生まれでない人間を
ヒューマンでないと定義するわけだな?
それは人種差別主義者の考えだ。恥を知りたまえ!!」

部下A
「スーパーマンは弾丸より速く飛んで
ビルから落下中の人を救ったりしますが、
その速度でビルから落ちている人と接触すれば
つまりそれは
高速移動中の物体同士が衝突しているわけですから、
双方ただではすまないのではないのですか?
映画の映像は捏造に違いありません。」

BOSS
「彼は”スーパーマン”なのだ、そこが重要だ。
彼がスーパーである事を忘れてはならない。」

部下B
「みんな、忘れていませんか?
スパイダーマンこそが真のスーパーヒーローですよ。」

BOSS
「何を以てして彼を”スーパー”と呼ぶのだ?
あれは気味の悪いクリーチャーだ。」

(議論が続く)

部下C
「キャプテンアメリカはあまり好きではないなぁ。」

BOSS及び、その場の全員
「正気か?彼はキャプテン『アメリカ』だぞ?
おまえは愛国者ではない!!」

(一同に動揺が走る)

BOSS及び、全員
「おまえさてはテロリストじゃないのか? 
こいつは共産主義者に違いない!!」


ここで女性が登場。


BOSS
「キミが最も好きなスーパーヒーローは誰だね?」

女性部下
「スーパーマンね。
なんたって彼はボディが最高にセクシーだわ!」

BOSS
「うむ、キミはよくわかっている。
女性に人気なのも、スーパーヒーローの条件なのだ。」

女性部下
「バットマンはお金持ちなのが魅力だけど…
顔が見えないから不安だわ。
マスクを取った顔が醜かったら、と思うと。」

BOSS
「ではあのクリーチャー(スパイダーマン)など論外だな。」



…などト、この様な議論が延々続いたのだそうです。

バットマンファンの人がバットマンを賛美すれば、
スーパーマン信者のBOSSが
「バットマンはリッチマンであるにも関わらず
女遊びを一切しない。この点は尊敬しよう。
しかしだ!
何故、彼は女性を侍らせずに
ロビンなどという少年をパートナーにしているのか?
あれはバットマンがゲイである証拠ではないのか?
キミたち!
ゲイをスーパーヒーローと呼んでいいものだろうか?
やはり、スーパーヒーローの名が相応しいのは
その名の通り、スーパーマンだけではないのか?」
ト、口角泡を飛ばして問いかけるなど、
議論は白熱してやまなかったという事でした。

こんな熱い議論を日常的に楽しめる新九郎君を
少々羨ましく思います。 (少しですが)






いつも読んでくださっている皆様、有難う御座います。

新九郎譚 「既にやっておいた」


さて今回は、
我らが新九郎君が
いたく感動したというお話をいたしましょう。

新九郎君は先だって、
幸運にも昇格のチャンスをいただきました。
この機会、逃してなるものか、ト、
軽く書類選考をパスし
勢い込んで2次試験の面接への運びとなったわけですが、
若い新九郎君はどうにも落ち着きませんでした。
高官達が待つ面接室を前に、
新九郎君の鼓動は破裂せんばかりです。

すわ、ここぞ! などと、腹をくくる事も能わず、
ウロウロおろおろ歩き回っているうちに、
(指揮系統は違うのですが)
ある上役にあたるアメリカ人に
ばったりと出くわしてしまいました。

緊張のあまり、
既にすっかり狼狽して
舞い上がっていた新九郎君は、
まるで筋違いの一言を
声を裏返して発してしまいます。

「す、す、推薦状を書いてくれませんか?」

面接の寸前でのそんな要請に意味があるわけもなく、
又、そんな話をいちいち引き受けていたら大変なのですから
承知してもらえるハズもありません。
しまった!と思った時にはもう遅く、
上役の方はいつもの強面で
モルモットの様に縮こまった新九郎君を
じっと見下ろしています。

新九郎君はアタフタおどおどと
冷や汗に額を濡らしていましたが、
この方、突然ニヤリと笑って曰く、

I already did.
(既にやっておいた)


転瞬、
新九郎君の胸が爽やかな感動で満たされた事は
云うまでもありませんが、彼は決して浮かれませんでした。
同時に生じた新しい目標に
彼の背筋はきちんと正されたからです。
目指すべきはこういう人格である、と。






いつも読んでくださっている皆様、有難う御座います。

(因みに新九郎君、見事に昇進を果たしました。)

新九郎譚 「落とし物」


これまでこのブログでは、
新九郎という名の若者の話を何度かしてきました。
○○新九郎君は、作者がよく知る実在の人物で、
珍しい話をよく提供してくれますので
これをシリーズ化して記録してゆくことにします。

さて、今回のお話はある落とし物に関するものです。
新九郎君は役人でありますので
落とし物係も経験したことがあるそうで、
今回はその時の
ある印象深いエピソードを紹介しましょう。



落とし物

ある時、人の集まる大きなイベントがあり、
我らが新九郎君は臨時で落とし物係に配属されました。
届けられた拾得物には
凡て書類が作成されて記録が行われ、
保管までには複雑な手続きが求められます。

新九郎君は普段は非常に真面目なのですが
若干合理主義者的で冷酷な部分があり、
財布などの重要なアイテムに対しては
書類作成をはじめとした複雑な手続きも当然と考え
事務的に淡々とこなせたのですけども、
明らかに価値のないと思われる物については
この手続きを無駄に感じた、ト、告白してくれました。
そればかりか、忙しい勤務でしたので、
多少なりともの苛立ちも感じていたそうです。
次にお話します、ある写真についても同様でした。
(役人風情がけしからん、ト御腹立ちでしょうけども、
どうか最後までお読みください。)


それは猫の写真でした。
発見者が道で拾ったというその写真は、
一見して手作りとわかる粗末なケースに入っていて
ゆわえられた鎖もなんだか安っぽく見えました。
ケースを形作るテープの端は黒く変色して薄汚く、
正直なところ何の価値もないゴミのように
新九郎君の目には映ったそうです。
然し手続き上、新九郎君は何枚かの書類を作成せざるをえず、
時間を費やして手続きを終えましたが、
無駄な手間だ、ト、そんな不満だけが胸に残ったとの事。
彼は良き友人ではありますが、
これは少々不届き千万と云わざるとえません。

それから数時間の後、
一人の老人が新九郎君の係を訪ねてきました。
老人はおどおどしながら、
申し訳なさそうにこう尋ねたそうです。
「猫の写真を探しているのですが…。」

それなら先ほど届きましたよ、と、
新九郎君は軽い気持ちで写真を取りだしました。
本当に何の特別な気持ちも感情もなく、
決まり仕事の一環として淡々と行っただけでした。
あんなものを探す人もあるのか、ト、
少々の驚きがあって、
何より手続きが無駄にならず、やれやれ、などと
考えただけだったそうですが…、
この何でもない手続きが、この後しばらく、
強く深く、新九郎君の心に残る事となります。

老人は写真を見るなり、それです!と叫び、
受け取った写真をしっかりと胸に抱いて
「ごめんな、みーちゃん、ごめんな!」と、
涙を流して膝から崩れ落ちました。
「ごめんな、本当にごめんな!もう離さないからな!」
あまりの展開に、新九郎君は一瞬あっけにとられましたが、

人目も気にせず号泣する老人の
丸まった小さな背中を見下ろしながら、
新九郎君は凡てを悟って硬直しました。

粗末と思えた写真入れのケースは、
不器用な老人が
大切な写真の保存と携帯の為に
懸命に作成したものであり、
汚れたテープは老人が何度となく
写真を撫でた悲しみの痕跡だったのです。

猫が既にこの世にいない事も明白であり、
そしてこの猫が老人にとっての
大切な家族だった事も
この状況が雄弁に物語っていました。

この厳粛に際し、新九郎君は、
己の軽率さと馬鹿さ加減を心の底から恥じて、
老人の涙が辛かったのだ、ト、
独り言のように険しい表情で語ってくれました。

新九郎君がこの係に配属されたことには、
きっと意味があったのだと思います。
彼のことですから、きっと無駄にはしないでしょう。
それは、
この初冬の高い青空の如くに明らかです。




いつも読んでくださっている皆様、有難う御座います。

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